神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 アルベルトも床へ落ちた髪を見つめ、それから妻へと視線を移す。

 「まさか……お前の企みだったのか?」
 「ち、違うのよ!」

 ベアトリスが慌てて首を振る。

 「それは……!」

 言葉に詰まり、周囲の視線が一斉に集まった。
 逃げ場を失ったように顔を歪め、やがて堪えきれなくなったように叫ぶ。

 「エリザが必要だと言ったから……!」
 「お母様……!?」

 エリザの声が大広間に響いた。
 ベアトリスは、はっとしたように口元を押さえる。
 けれど、もう遅かった。

 「……エリザが?」

 アルベルトの顔から、さっと血の気が引いていく。

 「違う……!」

 エリザが激しく首を振る。

 「私は……!」

 けれど続く言葉は出てこない。
 床へ落ちた髪と、妻、娘を見比べ、アルベルトの顔はますます青ざめていった。

 「……終わった」

 掠れた声が漏れる。

 「カーティス家は……」

 その先は、もう言葉にならなかった。

 「カーティス伯爵」

 静かな声が大広間に響く。
 アルベルトが顔を上げると、アーヴィンの表情からは先ほどまでの穏やかさが消えていた。

 「王宮の夜会で禁呪具を用い、公爵夫人へ危害を加えた。この件を見過ごすことはできない」

 冷えた声が、静まり返った大広間へ落ちる。

 「三人とも連れていけ。詳しい事情は、改めて聞く」
 「はっ!」

 控えていた兵たちが一斉に動き出した。

 「お、お待ちください、殿下! 私は何も知りません! 本当に、私は何も――」
 「それも含めて調べる」

 有無を言わせない声だった。
 兵たちが三人を取り囲む。
 
 その時、震える声が聞こえた。

 「……違う」

 シエラが視線を向ける。
 エリザは、かつての華やかさを失っていた。
 頬はこけ、白く色褪せた髪が肩へ落ち、目元には深い皺が刻まれている。
 それでも、その瞳に宿る執着だけは少しも衰えず、ただシエラだけを見つめていた。

 「違う……! どうして元に戻るのよ!」
 「……エリザ」
 「お姉様は醜いのよ! 顔を隠して、俯いて、私より下で生きていればよかったの!」

 ベアトリスが止めようとするが、エリザは聞く耳を持たない。

 「なのに、どうして今はお姉様なのよ!? どうしてみんなに認められて、テオドア様に大事にされてるの!?」

 声を裏返しながら、さらに叫ぶ。

 「お姉様には、そんな価値なんてないのに!」

 けれど、その言葉を聞いても、もう以前のように胸は痛まなかった。

 「……自分は醜い。何の価値もない。あなたより下にいなきゃいけない。ずっと、そう思ってた」
 「だったら――」
 「でも、もう違う」

 シエラは、まっすぐに妹を見た。

 「私がどんな人間なのかを決めるのは、あなたじゃない。お義母様でも、お父様でもない」

 そして、隣にいるテオドアへ一度だけ視線を向ける。
 紫の瞳が、静かに自分を見守っていた。
 
 もう、迷わなかった。

 「私の人生は、私のものよ」
 「……違う」

 エリザの唇が震える。