今夜も執事は、お嬢様を手放さない

「お嬢様は、もっとご自覚なさるべきです」

「なにを……?」

「ご自分がどれほど人を惹きつけるかを、です」

 ことはは困ったように眉を下げた。

「わかんないよ、そんなの……」

「ええ。でしょうね」

 どこか諦めたみたいな口調に、ことはは少しむっとする。

「碧、なんか子ども扱いしてる」

「しております」

「また!」

「事実ですので」

「ひどい……」

 頬をふくらませることはを見て、碧は楽しそうに目を細めた。

「ですが、その素直なところはお嬢様の長所です」

「それ、褒められてるのかな……」

「もちろんです」

 そんなやり取りをしているうちに、少しずつ眠気も薄れていく。

 着替えを終え、食堂へ向かうころには、ことははようやくいつもの調子を取り戻していた。長い廊下を碧と並んで歩く。正確には、半歩後ろに碧が控えている形だ。

 姫宮家の廊下は広く、磨き上げられた床に窓からの光が反射している。壁には歴代当主の肖像画が並び、屋敷そのものが由緒を語っているようだった。

 ことはは小さく息を吐く。

「今日も学校かぁ……」

「お気が進みませんか」

「進まないわけじゃないけど……朝は眠いもん」

「でしたら今夜は少し早めにお休みになるべきです」

「うぅ……でも昨日、新しいお話読んでたら止まらなくなっちゃって……」

「やはりそうでしたか」

「えっ、なんでわかったの?」

「お嬢様の本棚に、しおりがずいぶん後ろのほうに挟まっておりました」

「見たの!?」

「片づけの際に目に入りました」

 まったく悪びれずに言われて、ことはは思わず振り返る。

「もう……」

「本日から就寝前の読書は、一日三十分までになさってください」

「ええっ、やだ!」

「では朝の二度寝も禁止で」

「それはもっとやだ……」

「でしたら、お選びくださいませ」

 にこやかに言うくせに、内容は少しもやさしくない。ことははぶつぶつ言いながらも、結局反論できなくなる。