今夜も執事は、お嬢様を手放さない

ことはは鏡越しにその姿を見つめる。

 東雲碧は、誰が見ても完璧だ。

 仕草は美しく、言葉遣いは穏やかで、どんなときも冷静。姫宮家の令嬢につく執事として、これ以上ないくらいふさわしい人。学園でも、迎えに来る碧を見かけた女子生徒たちがひそひそと騒いでいることを、ことはは知っている。

 けれど碧は、そんな視線に興味がないみたいだった。

 いつだって彼が気にかけるのは、ことはのことばかりだ。

「どうかな、変じゃない?」

「ええ。とてもお似合いです」

「ほんと?」

「はい。可憐でいらっしゃいます」

 即答されて、ことはは照れくさくなる。

「そういうの、すぐ言うよね……」

「事実を申し上げているだけです」

「でも恥ずかしいよぉ」

「慣れてください」

「むり……」

 しょんぼりと肩を落とすと、碧が小さく笑った。

「では、少しずつ慣れていただきましょう」

「少しずつって?」

「毎日申し上げます」

「えっ」

「お嬢様がどれほど愛らしいかを、毎日丁寧に」

 ことはは鏡の中で目を丸くする。

「そんなの、恥ずかしくてだめ……!」

「だめではありません。必要なことです」

「必要……?」

「ご自分の価値を、あまりにもご存じないので」

 白いリボンを結び終えた碧は、鏡越しにことはを見つめた。その視線は穏やかなのに、なぜだか逃げられないような気がする。