私の運命の人

「さーて、始まりましたよ、始まっちゃいましたよ、お二人の結婚パーティー! 何をするかはお楽しみ。ではまず、『どうしてこの二人が結婚!?』という多くの皆さまの疑問にお答えします。はい、スクリーンにドーンとご注目! あ、お二人は座ってください。頭が映っちゃってますよ」

茶化されて私といっくんは慌てて席に座った。
照明が落とされ、白いスクリーンに動画が映し出される。
最初に【Presented by. Sakai~!】と大きく文字が躍り、それだけで笑いに包まれた。

「坂井くん、コメディアンなのかな?」
「何でもできるな」

いっくんとそんなことを話していると、パッと一枚の写真が浮かび上がった。

「ひゃあ!」

私は思わず声を上げる。
それは五歳の私が祖母の家の縁側で、いっくんと肩を並べてスイカを食べている一枚。
笑顔で見つめ合う二人を後ろから捉えた写真だった。

「これ、おばあちゃんが?」

どういうことかと私が戸惑っていると、
「可愛い! あれって優里先生?」
「お隣が旦那さま? あんなに小さい時から結ばれてたんだ」
と女子たちの声が聞こえてきた。

「やーん、少女マンガの世界~!」

私の頬は真っ赤になり、顔も上げられない。
すると別の写真に替わった。
浴衣を着た五歳の私が、右手に金魚の水袋を持ち、左手をいっくんと繋いで歩いている後ろ姿。

「わあ、夏祭りデート!」
「これを恋と呼ばずに何と呼ぶ?」

女の子たちは興奮気味に盛り上がる。
次は木に止まっているセミに手を伸ばす私を、いっくんが抱き上げている一枚。

「え、子育て?」

聞こえてきた声に、いっくんはがっくりと肩を落とした。
次は和室で寝てしまった私の頭を優しくなでて見つめる、いっくんの横顔。

「愛が、愛が満ち溢れている!」
「これはもうフィアンセ!?」

ーー時は流れーー

次の写真は、高校の制服を着た入学式の日の笑顔の私。

「優里先生、可愛いー!」

続いて生徒会活動でいっくんの話を真剣に聞く私の表情。

「ひゃー! 感動の再会」
「ここでまた二人の人生が重なるのね」
「これはもう、運命でしょう」

生徒会役員の皆でいっくんを囲んだ集合写真。
卒業後に遊びに行った学園祭の格付け大会。

「あはは! 旦那さま、優勝! 超一流認定だって」
「花かんむりかぶってるー」

そして最後は、チャペルの祭壇で手を取り合い、見つめ合う私たちの写真。

「えっ、これって今日の挙式?」
「できたてホヤホヤ?」
「すてきねー」

キラキラと彩られて写真が消えると、一斉に拍手が起きた。

「どうですか? お二人が結ばれる運命だったことがおわかりいただけたと思います」

坂井くんがマイクでそう言って会場を見渡すと、女の子たちが「はいっ!」と手を挙げた。

「お二人の愛の格付けやりませんか?」
「お互いどれだけ愛し合っているか」
「ラブか、ラブラブか、ラーブラブか」

いいねー!と黄色い歓声が上がり、私といっくんは「どういうこと?」と顔を見合わせた。
坂井くんがマイクを渡し、女の子たちは説明を始める。

「あんなに小さい頃から一緒にいたら、お互いのことをすごくよくわかってると思うんです。顔を見なくても声で相手を聞き分けられたりしますか?」

訊かれて私は、「それは、まあ」と頷いた。

「じゃあ早速試してみましょー。旦那さま以外にもあと何人か、優里先生の名前を順番に呼んでもらいます。先生は後ろを向いて、旦那さまだと思う声で振り返ってくださいね」

促されていっくんがメインステージを下り、私はその場で後ろを向く。

「でまずお一人目。優里先生の名前を呼んでください」

すると後ろから、わざといっくんに似せた低い声がした。

「優里」

私は後ろ向きのまま首を振る。
二人目もよく似ていたけれど、いっくんではない。
そして三人目。

「優里」

よく通る低い声、優しくてちょっと甘い響きに、私はパッと振り返った。

「いっくん」

いっくんが嬉しそうに笑い、「おおー!」とどよめきと拍手に包まれる。

「大正解ー! これはお二人にとっては簡単でしたね。では旦那さまは、そうだな。目をつぶって手を握っただけで奥さまの手だとわかりますか?」

「えっ、それはさすがに……」と私が渋ると、いっくんは頷いてみせた。

「わかるよ、絶対に」
「おっ、旦那さまは自信満々ですね。では挑戦していただきましょう!」

いっくんが目をつぶり、その前に私と広香と瀬川先生が並ぶ。

「では旦那さま、右手を出してください」

差し出された右手を、まずは広香が握った。
けれどいっくんはすぐさま首を横に振る。
次は、広香に目配せされて私が握った。
するといっくんはその手をスッと引いて私を抱き寄せる。

「優里だ」

きゃー!と一斉に歓声が上がり、いっくんの腕に抱かれた私は真っ赤になった。
目を開いたいっくんが私を見て微笑む。

「お二人の愛は本物です。もう、超一流ラブ!」

パチパチと拍手される中、瀬川先生が「くうー!」と叫んだ。

「教え子に結婚を先越されるとはー。ねえ、どうやったら結婚できるの? 教えてー」

どうやら彼氏のたあくんとの結婚話はまだ出ていないらしい。

「瀬川先生、ブーケトスしますから受け取ってください」

私がそう言うと、瀬川先生は「うん!」とガッツポーズをする。
大勢の女の子たちが集まる中、私は後ろを向いてブーケを構えた。

「いきますよ。せーの!」

思い切り高く後ろに投げると、「きゃー!」と歓声が上がる。
振り返った私は、ブーケがポスッと晶子先生の手の中に収まるのを見て目が点になった。

「晶子先生! どうして取るんですかー! 旦那さんいるでしょ?」

瀬川先生が泣きつき、晶子先生は「あら、新しいパートナーが現れるのかしら?」と頬に右手を当てる。

「晶子先生!?」
「冗談よ。ほら、瀬川先生にも春がやって来ますように」

そう言って晶子先生がブーケを渡し、瀬川先生は「ありがとうございます!」と大事そうにブーケを抱えた。
最後に皆で集まって記念写真を撮る。

「先生、こっち見てー!」
「次はこっち!」
「私も一緒に撮りたーい」

わいわいと賑やかに撮影大会が始まり、私はいっくんと肩を並べて笑みを浮かべる。
いっくんがそっと私の手を握り、その温もりを感じながら幸せを噛みしめた。
たとえこの先に何があっても、私たちなら大丈夫。
もしまた離れたとしても、何度でもめぐり会う。
いっくんとなら信じられる。
私たちは幸せになる運命なのだと……