私の運命の人

「優里、おめでとう! ああ、こんな日が来るなんて夢みたい。私もう、この世に思い残すことは何もないわ」

ホテルの控え室でメイク中の私の後ろを、祖母が留袖姿でうろうろする。

「おばあちゃん、まだまだ長生きしてね」
「そうね、孫の顔を見るまでは元気でいなくちゃ」

途端にコロッと言うことが変わり、私は母と顔を見合わせて笑った。

「じゃあね、優里。先にチャペルに行ってるわね」
「はーい」

メイクが終わると私はプリンセスラインのウェディングドレスに身を包んだ。
髪に煌めくティアラを飾り、胸元にはいっくんのお母さんから贈られたダイヤモンドのネックレスを着ける。

『わたし、およめさんになるのがゆめなんだ。きれいなどれすをきて、けっこんするの』

ふいに幼い頃の自分の言葉を思い出す。
あれは、そう。いっくんと童話の絵本を読んでいる時だった。

『そう。ゆりちゃんならきっと可愛いお嫁さんになれるよ』
『ほんとう?』
『もちろん』

そう言って笑ってくれたいっくんを思い出す。

(ふふっ、あの時の私に教えてあげたい。この人と結婚するんだよって)

その時、ドアをノックする音が聞こえてきた。

「はい」
「優里、支度できたか?」

顔を覗かせたのは父だった。
私の姿を見るなり、驚いたように言葉を失くす。

「お父さん。今まで育ててくれてありがとう」

立ち上がってそう言うと、父は涙を堪えて声を震わせた。

「バカ、泣かせるんじゃない」
「バージンロード、一緒に歩いてね」
「だから、それ以上言うんじゃない」

父は涙がこぼれないように、天井を見上げて何度もまばたきしていた。