私の運命の人

夕食はローテーブルにホットプレートを置き、座って作れるお好み焼きにして、二人でジュージュー焼きながら色んな具材を入れて楽しんだ。

「最後にオムそば作りましょうか」
「はい! お願いします」

先生は溶き卵をホットプレートに広げると、焼きそばを載せてくるりと返して包んだ。

「わあ、上手ですね。さすが関西仕込み」
「どうぞ、召し上がれ」
「ありがとうございます」

卵とソースがほどよく絡んだオムそばに、私が「美味しい!」と目を輝かせると、先生も嬉しそうに目を細めた。

「先生って、生まれも育ちも滋賀なんですか?」

まずは軽く小手調べ。
すると先生は「いいえ」とサラリと答えた。

「そうなんですね。生まれはどちら?」
「関東です」
「へえ、東京ですか?」

埼玉ですよね?と心の中ではニヤリとする。

「違うと思いますが、覚えてないんです。小さい頃に引っ越したようで」
「ふうん。じゃあ、子どもの頃のあだ名は?」
「特にないですよ。そのまま名前で呼ばれてました」
「三十木くんって?」
「……まあ、そんな感じです」

そんなわけないですよねえ? 生田くん、もしくはいっくんのはずです。
さて次はどう攻めよう。

「私、子どもの頃に祖母のうちによく遊びに行ってたんですけどね、斜め向かいに大きなお屋敷があったんです。とってもすてきで、おとぎ話に出て来そうな洋風のお屋敷」
「そうなんですか」

全く動揺しない先生。
こんなものでは効かないらしい。

「そこに住んでいた社会人のお兄さんが、とってもかっこよかったんです」
「…………?」

おや、何か考え込んでいる?

「いっくん」
「…………」
「って呼んでたんですけどね」
「そうですか」

なかなか手強い。

「私、いっくんのことが大好きだったんです。天文部に入ったのも、高校教諭を目指したのも、全部いっくんのおかげ」
「……!?」

ん? 何やら反応が?

「でも急にいなくなってしまったんです。私、悲しくて悲しくて。ずっと泣いてばかりいました。どうしていっくんは私に何も言わずにいなくなったの? って」
「…………」

心なしかシュンとしたように見えるのは気のせい?

「私、もう一度いっくんに会えたら伝えたいことがあるんです。わっくん、十二年生きたよって」
「ええー!?」

先生は目を見開いて驚いたあと、しまったとばかりに右手で顔を覆った。

「やっぱり! 先生がいっくんですよね?」
「いや、違います。ちょっと驚いてしまっただけで」
「どうして驚くんですか?」
「だって、その、金魚が十二年も生きるって、すごいなと思って」
「私、わっくんが金魚だって言いましたっけ?」

すると先生は絶句して仰け反った。
これ以上はごまかしようがない。

「隠したって無駄ですよ。先生がいっくんですよね? どうして教えてくれなかったんですか? どうして……どうして黙っていなくなったの?」

気づけばポロポロと涙がこぼれ落ち、そんな自分に驚く。
けれど一度口にすると、想いはどんどん込み上げてきた。

「寂しかった。悲しかった。あんなに大好きだったのに、急に会えなくなるなんて。私、いっくんのことが本当に大好きだったのに。優里ちゃんって、また優しく呼んでほしかった。もっともっとたくさんのことを教えてほしかった。いっくんは私の中で誰よりも大きな存在だったから」
「三嶋さん……」
「どうしてまだ嘘をつくの? 私はいっくんの中で三嶋さんじゃないでしょう?」

涙があとからあとから溢れては頬を伝って落ちる。
私はすがるようにいっくんを見つめた。
いっくんの瞳が戸惑うように揺れる。
やがてゆっくりと腕を伸ばし、私を胸に抱き寄せた。

「ごめん、ごめんね、……ゆりちゃん」

その瞬間、心がギュッと締めつけられ、私は堪え切れずに声を上げて泣きじゃくった。

「いっくん、いっくん!」

背中に腕を回して抱きつくと、いっくんは私の頭を抱き寄せる。
耳元でいっくんのかすれた声がした。

「ゆりちゃん、ごめん。本当にごめん」
「会いたかった。ずっとずっと会いたかったの」
「僕もだよ、ゆりちゃん」

身体を震わせながら、私たちはしばらくお互いを抱きしめ合っていた。