私の運命の人

「先生、大丈夫?」

生徒たちは松葉つえをつく私を見て、次々と駆け寄って来てくれる。

「肩貸そうか?」
「荷物持つよ」
「あ、椅子。ほら、ここに座って」

私は皆の優しさが嬉しくて涙が出そうだった。

「大丈夫よ、みんなありがとう」

先生方も気遣ってくれ、私が担当する日々の雑務も代わってくれる。
移動しないで済むようにとお弁当も教室で食べることになり、生徒たちを囲んで賑やかに味わった。

「先生、見てこのキャラ弁。私が作ったの」
「わあ、すごい! 凝ってるね」
「でしょ? 見た目はいいんだけど味は美味しくないの」
「あはは! そうなの?」

すると体格のいい男子も自分のお弁当を見せに来た。

「俺の弁当見てよ。見事に茶色の冷食弁当、名付けてブラウニー。けど味は保証済み」
「ブラウニーか、オシャレなネーミングだね。私も解凍いらずの冷凍食品はよく使うよ。保冷剤代わりになるから夏場はそればっかり詰めてる」
「なるほど! 俺もブラウニーは食中毒防止の為ってことにするわ」

そんなふうに笑いの絶えない昼休みはとても楽しかった。
放課後になると、私は職員室に戻って机で作業しながら時計を気にする。

(まさか三十木先生、本気で迎えに来たりしないよね?)

とにかくできるだけ早く仕事を終わらせ、【無事に帰宅しました】とメッセージを送ろう。
そう思い、てきぱきと手を動かした。

(よし、最低限のことは終わらせたぞ。今日はもう帰らせてもらおう)

立ち上がって「お先に失礼させていただきます」と挨拶すると「気をつけてね」と一斉にほかの先生方が顔を上げる。

「はい、ありがとうございます。お疲れ様でした」

にこやかに職員室をあとにし、階段に差し掛かった時だった。
下から三十木先生が上がって来て私はぎょっとする。

「こら、どうしてエレベーターを使わない?」

私は一瞬で先生に叱られた生徒の気分になり、首をすくめて背を向ける。

「どこへ行く?」
「だって、怒られるもん」
「逃げられるとでも思ってるの?」
「思ってます」
「大人げないな。それでも教師?」
「今は生徒です」

全くもう……と呟き、先生は私を抱き上げようとした。

「いやー! だめ、やめて! こんなところでそれだけは」
「しっ、静かに。せっかく誰もいないと思ったのに」
「ごめんなさい。何でも言うこと聞きますから、それだけはご勘弁を」
「最初から素直にそう言いなさい。ほら、エレベーターに乗る」
「はい、喜んで」

そうして私は朝と同じように三十木先生の車でアパートまで送ってもらった。