私の運命の人

友和先輩と菜々子先輩の幸せオーラに目を細めつつ、皆で集合写真を撮ったりと披露宴は楽しくお開きとなる。
まだ夕方の早い時間帯なのもあり、広香は橋口くんとデート、坂井くんは同級生の生徒会メンバーと飲みに行くと言って別れた。
残されたのは私と三十木先生だけ。

「えっと、先生はこのあとご予定は?」
「特にありません」
「そうですか。でしたら前回ごちそうになってしまい、タクシー代まで出していただいたお礼にお茶でもいかがでしょう」
「私は構いませんが、三嶋さんは大丈夫ですか?」
「はい。高級店は無理ですが、普通のカフェでしたら私のお給料でも大丈夫です」

すると先生は、ふっと笑みをもらす。

「私と一緒にいることは大丈夫ですか?」
「えっ、もしかして学校の外で教師同士が会うのはいけないのでしょうか?」
「ははっ、どこまでも話が平行線だな。わかりました、行きましょう」
「はい、あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ?」

話が噛み合っていない気もするが、三十木先生がいたずらっぽく返してくるのにドキッとして私はうつむいた。
そのまま二人で近くのショッピングモールに行き、落ち着いた雰囲気で紅茶の種類が豊富なカフェに入る。
ふかふかの椅子にゆったりと座ると、静かな店内にどこかホッとした。

「すてきなお店ですね。初めて来ました」
「僕もです。いいですね、ここ」
「はい。紅茶も色んな種類があるし、通いたくなりますね。また来ようっと」
「一人で?」
「はい。あ、でもアフタヌーンティーは二名様からって書いてありますね。今日はもうお腹いっぱいだし、次回は一人で二人分食べるしかないか」

小さくひとり言を言うと、先生がぷっと吹き出した。

「どうしてそうなるの。普通は誰か誘おうって思うでしょ?」
「でも誰も相手がいないんですよね。広香も瀬川先生も、デートの方が大事でしょうし」
「坂井くんは? さっきいい雰囲気でしたけど、つき合ってないんですか?」
「つき合ってないですよ、単なる友だちです。それに彼、まだ京都に住んでますしね」
「なるほど」

そうこうしているうちに「ご注文はお決まりですか?」とにこやかにスタッフに尋ねられる。

「えっと、私はスコーンのセットを。紅茶はホットのアールグレイをレモンでお願いします」
「かしこまりました」

先生が私に「アフタヌーンティーにしなくていいの?」と念を押す。

「はい、大丈夫です。別の日にお腹を空かせて味わいたいですから」
「そう。じゃあ僕も今日は紅茶とパウンドケーキのセットにしておこう。ホットのダージリンをミルクでお願いします」

スタッフが復唱し「少々お待ちくださいませ」と言って下がると、私はコップのお水をひと口飲んでから店内を見渡した。

「内装が本当にすてき。イギリスのリバティプリントっぽいですね」
「ああ、そうだろうね。この椅子の生地も超長綿を使ったタナローンだろう」
「蝶々メン?」
「……君、今どんな漢字を想像してる?」
「バタフライ男です。名前はタナローン」

先生は一瞬ポカンとしてから、声を上げて笑い出す。

「ははは! 想像しちゃったよ、人面ちょうちょのタナローン」
「かっこいいですか?」
「いや、全く」

しばし笑ってから、先生は笑いを収めて説明してくれた。

「タナローンというのは生地の名前で、通常よりも遥かに細くて貴重な綿で織り上げられているんだ。それが超長綿。Extra Long Staple Cottonって言えば英語科の君ならわかるかな?」
「ああ、なるほど。それで日本語だと超長綿になるんですね」
「そう。英国のリバティ社が開発した、シルクみたいな光沢と滑らかな肌触りを持つ最高級のコットン百パーセントの平織り生地」
「そうなんですね。どうりでお店の雰囲気がいいはずです。本格的で、イギリスに来たみたい」
「確かに。僕もまた来よう。お気に入りのお店になりそうだ」

二人で微笑み合い、ポットで運ばれてきた紅茶をじっくりと味わった。

「スコーンも美味しいです。焼き立てのホロホロで、クロテッドクリームも濃厚でコクがあって」
「パウンドケーキもしっとりしていて美味しいよ。レモンアイシングがほどよい酸味で、少しサクッとしていて食感もいい」
「先生、食レポ上手ですね。さすがです」
「どうさすがなの? 食いしん坊みたいだな」
「違いますよ。グルメ評論家みたいってことです。あ! そうだ、思い出しました。先生、学園祭の格付け大会で見事優勝した超一流ですもんね」
「ああ、そんなこともあったな」

私はフォークを置くと、バッグからスマートフォンを取り出す。

「まだ残してあったと思うんですよね……。あ、あった! ほら」

そう言って先生に写真を見せる。
それは優勝が決まって花かんむりを頭に載せた三十木先生と、後ろで悔しがっている晶子先生の写真だった。

「え、何これ。いつ撮ったの? しかもなんでまだ持ってるの?」
「だっていい写真だから。よく撮れてるでしょう?」
「いやいや、ちょっと、恥ずかしいから。すぐ削除して」
「じゃあ、あとで」
「そうやって絶対削除しないでしょ?」
「あ、バレました? さすがは先生」
「褒めてもおだててもだめ!」

言い合いつつ、結局私は笑顔でかわし、写真はそのまま残しておいた。