私の運命の人

夏になり、私は十九歳になった。
大学も長い夏休みに入り、免許合宿で運転免許を取ったり、二週間の語学留学に行きつつ、アルバイトにも精を出す。
九月から坂井くんが受験勉強に専念する為、一旦お休みすることになっており、真由子さんは「今から気が重い。シフトも回らないし、ノー坂井くんデーで売り上げも落ちる」とぼやいていた。

そして九月の学園祭には、広香と橋口くんと一緒に行くことにした。
電車に乗って向かう途中、私は衝撃の事実を知る。
なんと、広香と橋口くんがつき合いが始めたというのだ。

「ほ、本当に!?」

どうやら広香は、私が坂井くんと別れたと話したことで言いづらくなっていたのだろう。

「一緒に出かけるようになっただけなんだけどね。それをつき合いと言うのかどうか」
「それは立派なおつき合いでしょうよ」
「仕事の?」
「いやいや。ほら、橋口くんが顔赤くして固まってるもん」

すると広香は橋口くんを振り返り「バカ! やめてよ、恥ずかしい」と諌める。
そんな二人は新鮮で、見ている私まで照れてしまった。

「おー、やってるやってる」

懐かしい高校に着くと、校門には学園祭の大きな看板が立てられ、たくさんの来場者で賑わっていた。

「あっ、先輩! こっちこっち」

いち早く私たちを見つけた坂井くんが手招きする。

「お久しぶりっす!」
「坂井、すっかり大きくなって」
「橋口先輩も、さらに横幅が大きくなられて」
「そうなんよ、もう立派にお腹が……って、おい」

あはは!と笑って橋口くんのボディブローを避けてから、坂井くんは私と広香に「こんにちは」と声をかける。

「こんにちは。生徒会の企画って、何をやるの?」
「今年はオープニングセレモニーと参加型の格付け大会です。体育館でもうすぐセレモニーが始まりますから、どうぞ。ムービーは俺の渾身の作ですよ」
「そうなんだ、それは見逃せないね。楽しみ!」

私たちは坂井くんに手を振って早速体育館に向かった。
ぎっしりと並べられた椅子も、きっと昨日坂井くんたちが遅くまで残って準備したのだろうと思うと感慨深くなる。
中央の席に三人並んで座り、パンフレットをじっくり読んでいると、やがて照明が絞られて華やかな音楽が始まった。

『Welcom to 爽風祭!この地に足を踏み入れた皆さまを、笑いと興奮と幸せの世界にお連れしましょう。それでは、It's show time!』

ナレーションのあと、前方のスクリーンいっぱいに映像が流れ出す。
キラキラと輝きながら次々と現れる生徒たちの笑顔の写真に、見ているこちらも笑みを浮かべた。
高校生活を切り取ったその写真は、どれもが楽しそうな雰囲気に溢れている。

(すてき。思い出すなあ、私にもこんな日々があったんだ)

季節ごとの行事や授業のひとコマ、職員室での先生たちのふざけた表情もあって思わず笑ってしまう。
学園祭の準備の様子やアピールポイント、「ぜひ来てくださーい!」と声を揃えたメッセージなど、動画は飽きることなく最後まで楽しめた。

(さすが坂井くん、クオリティ高い)

拍手を送っていると、パッと照明が明るく切り替わった。
ステージの幕が上がり、カラフルな衣装を着た女の子たちが笑顔でポーズを取っている。
流行のダンスナンバーに合わせてノリノリで踊り出した女の子たちの中に、瀬川先生が交じっていて驚いた。

「瀬川先生、可愛い!」
「ほんとだ。ダンス上手いね」
「キレキレだよ、若いなあ」

見ている生徒たちからも「ヒュー!」と声が上がり、瀬川先生は弾ける笑顔で踊り続ける。
が、ラストに皆で肩を寄せ合ってポーズを決めたあと、がっくりと膝に手を置いてゼーゼーし始め、笑いに包まれた。

「先生、お疲れー!」
「まだまだイケるよー!」

先生は「ありがとー!」と手を振ってステージの袖に消えていった。