私の運命の人

次に坂井くんに会ったのは、その二週間後だった。

「優里、やっと会えた」
「ごめんね、なかなか時間が取れなくて」
「いいよ」

私は最近バイトも入れず、入っても坂井くんとはすれ違いで、こうして二人でゆっくり食事をするのはあのプラネタリウムのお店以来だった。

「今日は本物の星を見ようと思って」

そう言って坂井くんが連れて行ってくれたのは、海沿いのショッピングモールのテラス席だった。
大きな白いパラソルは暖房機能もあり、寒さを感じずに外での食事を楽しめる。

「優里、ブランケットも」
「ありがとう」

坂井くんはどこまでも優しい。
年下なのに、こんなにかっこよくてモテるのに。
どうして私なんかと? それも私が……
その先を考えそうになり、慌てて坂井くんに笑いかけた。

「とってもすてきなお店だね」
「ああ。今日は天気もいいから星がよく見える」
「本当に。きれいだね」

店内はにぎやかな声がしているけれど外の席は静かで、時折波が打ちつけられる音が潮風に乗って聞こえてきた。
私は言葉もなく夜空に見入る。

「優里」

ふいに呼ばれて「ん?」と坂井くん振り返る。

「なあに?」
「いや、ごめん。なんでもない」

そう言って視線を落としてから、坂井くんは思い直したように顔を上げた。

「星空を眺めている時の優里は、なんか別人みたいな気がする。俺の知らない、遠くの人みたいな気がして。優里を喜ばせたくてこのお店を選んだけど、やっぱり違う店がよかったな。俺を見てほしいから」

私は少し考えてから改めて坂井くんに口を開いた。

「坂井くん。私、あなたにきちんと伝えなきゃって思ってたことがあるの。あなたが私のことを好きだと言ってくれて、嬉しかったのは本当。もしかしたらつき合っていくうちに、あなたを好きになるかもしれないって、そうなればいいなって思ってた。でもそんな中途半端な気持ちであなたとおつき合いするのは、とても失礼だと思う。私はあなたを傷つけてしまうだけ」
「そんなこと!」

坂井くんは強い口調で身を乗り出す。

「ごめん、違うんだ。俺はそれをわかってて強引に優里とつき合おうとした。そのうちに俺のことしか考えられなくしてやるって。いつか俺に惚れさせてみせるって。今、優里が俺を好きでなくてもいい。このままつき合ってほしいんだ」
「坂井くん……」
「バイトでも会えるように、俺、カラオケの方は辞めてもっと優里とシフトを一緒にする」
「坂井くん」
「大学も、そう。優里と同じ大学を目指すよ。そしたら毎日会えるだろ? バイトでも大学でも、何ならサークルも同じところに……」

坂井くん!と私は話を遮った。

「そんなことしないで」
「どうして? 優里の迷惑にはならないようにするから」
「違う、そうじゃないの。あなたがあなた自身を見失ってどうするの?」

え?と呟く坂井くんを、私は正面から真っ直ぐに見つめた。

「あなたにはちゃんと地に足つけて、自分で自分の人生を歩んでほしい。私がいなければ、カラオケのバイトを辞めようとは思わなかったでしょう? 志望校だって、もっと別の大学を選んだでしょう? そうじゃなきゃだめ。だってこのままだと、私は坂井くんにとっての足かせに過ぎないもの」
「まさか、そんな」
「それに私は、あなたが私の為に連れて来てくれたすてきなお店で、あなたではなく夜空を見上げている。私はあなたを傷つけてばかりいるの」
「そんなことない」
「あるわ。だって坂井くん、今とても辛そうな表情をしているから。本当は怒りたいでしょう? 寂しくて、もどかしくてやるせなくて、それでも必死に堪えてくれてるんでしょう? 私があなたをそうさせてるの。私たち、一緒にいても幸せにはなれない」
「でも、これから先、少しずつ気持ちが変わっていけば……」

私はゆっくりと首を振った。

「お願い、わかって。私はこれ以上あなたを傷つけたくないの」
「優里……」
「こんな私を好きだと言ってくれてありがとう。でもあなたにふさわしいのは私じゃない。ちゃんとあなたに向き合ってくれる人が必ずいるから」

私は坂井くんが必死に気持ちを落ち着けようとするのを黙って見守っていた。