放課後の特別授業は溺愛です、先輩。

でも、さすがにバレるわけにはいかないんだ⋯⋯。



「先輩って、聴覚検査で再検査何回くらったの?ってくらいに耳遠いんだね。知らなかったやー」

「⋯⋯」



聞こえないフリ、聞こえないフリ⋯⋯。

っていうか、いちいちそんな毒を吐かないと喋れない病気にでもかかってるわけ⋯⋯?



「⋯⋯先輩、かわいーね」

「っ⋯⋯!?」



私は視線を本から瑞希に移動させた。

な、何言ったの⋯⋯っ!?



「あ、やっとこっち向いてくれた」

「あのねぇ瑞希!! 人にやっていいことと悪いことがあるでしょ!
か、かわいいだなんて⋯⋯私みたいな人に言っていいことじゃないってば」

「でも先輩、僕のことガン無視してたじゃん」

「うぐっ⋯⋯」



せ、正論すぎて言葉が出ない⋯⋯。

でも、だからって私の乙女心を弄んだ罪は大きいんだからねっ⋯⋯!



「⋯⋯じゃ、先輩。僕もう帰るねー」

「あ、うん⋯⋯。ばいばい?」

「ん」



そのまま、瑞希は私に手を振り返してから文芸部を出た。



「ほんとに、なんなの⋯⋯っ」



勝手に入部届出して。

私の本読んでるってカミングアウトして。

挙句の果てには私のこと⋯⋯かわいいって言って。

⋯⋯まあ、文芸部に入ってくれたのはありがたいけど。

とにかく、瑞希にだけは私が詠月楓琳だってバレないようにしなくちゃ。

一人だけの静かな部室で、私は心に誓った。