最強男子の過保護な溺愛が止まりません!

教室で感じたあの冷たい圧とは違って、今は少しだけ空気がやわらかい気がした。

「……あの」

「何」

「先輩って、いつもここに来るんですか?」

「たまに」

「そうなんですね」

「それだけか」

「えっと……」

 会話が続かない。
 私は慌てて次の言葉を探した。

「空、きれいですね!」

「……」

 しまった。
 あまりにも無難すぎた。

 でも氷河ノ先輩は、少しだけ目を細めて空を見た。

「そうだな」

 たったそれだけなのに。
 なぜか少しだけ、胸がどきっとした。

 ……いやいや、落ち着け私。
 これはただ、顔がいい人が静かにしてると絵になるってだけ。
 そう、それだけ。

「お前さ」

「は、はいっ」

「そのメガネ」

 氷河ノ先輩が、まっすぐこっちを見る。
 私は反射的に背筋を伸ばした。

「度、入ってるのか」

「えっ」

 心臓が嫌な音を立てる。

「は、入ってますよ!」

「ほんとか」

「ほ、本当です!」

「ふーん」

 全然信じてない顔だ。

 やばい。
 かなりやばい。
 このメガネ、変装用の伊達メガネなんだけど。

「じゃあ、取ってみろ」

「えっ!?」

「見えなくなるんだろ」

「そ、それは、そのっ」

 言葉が詰まる。
 どうしよう。
 ここで変にごまかしたら怪しい。
 でも取ったら終わる気がする。

 私が固まっていると、氷河ノ先輩はゆっくり近づいてきた。

「な、なんですか」

「お前が取らないなら、俺が取る」

「ええっ!?」

 とっさに立ち上がったせいで、ベンチに足がぶつかった。
 ぐら、と体が傾く。

「わっ」

 落ちる、と思った瞬間。
 強く腕を引かれて、そのまま胸元に引き寄せられた。

「っ……!」

 近い。
 近すぎる。
 鼻先が触れそうなくらい近くで、氷河ノ先輩の冷たい目が私を射抜く。

「暴れるな」

「だ、だって!」

「じっとしてろ」

 低い声に、体がぴたりと止まった。
 心臓だけがうるさいくらい暴れている。

 氷河ノ先輩の指先が、私の顔に触れる。
 そして。

 す、とメガネが外された。

「あ……」

 春の風が、むき出しになった目元に触れた。

 前髪のすき間からのぞく視界が、さっきよりずっと明るい。
 もう、ごまかせない。

 氷河ノ先輩の目が、わずかに見開かれる。

「やっぱりな」

 低く落ちたその声に、私は息をのんだ。

「へ、変ですよね……」

 苦し紛れにそう言った私を見て、先輩は眉をひそめる。

「どこが」

「え?」

「変じゃない」

 その言葉は思ったよりまっすぐで、私は一瞬、何も言えなくなった。