事件が表に出てから、学園はしばらく騒然としていた。
生徒会長の処分。
旧ローズの資料の精査。
関わっていた生徒への聞き取り。
今まで静かだったものが、一気に表へ引きずり出された。
けれど、その混乱の中でも、私は不思議と前ほど怖くなかった。
母の手紙があったから。
そして、あの日ずっと隣にいてくれた人がいたから。
放課後。
夕焼けの差しこむ空き教室に、私はひとりで呼び出されていた。
差出人は、氷河ノ先輩。
話がある。放課後、三階の空き教室。
短いその文だけで、朝から心臓が落ち着かなかった。
「……話って、何だろう」
小さくつぶやいた、そのとき。
教室の扉が開く。
振り向くと、氷河ノ先輩が入ってきた。
夕日の逆光の中でもわかるくらい、いつもより少しだけ真剣な顔をしている。
「待たせた」
「い、いえ」
扉が閉まる。
教室にいるのは、私たちふたりだけ。
それだけで、急に緊張が増した。
「座るか」
「えっ、あ、はい」
言われるまま席につく。
でも先輩は座らず、私の机の前に立ったままだ。
「先輩?」
「先に言う」
低い声。
まっすぐすぎて、逃げ道がない。
「この前の礼を聞くって言っただろ」
「……っ」
忘れてない。
忘れられるわけがない。
「はい……」
「じゃあ聞く」
先輩が少しかがんで、私と視線を合わせる。
「もう、先輩じゃなくていい」
「え?」
「仁って呼べ」
一瞬、意味がわからなかった。
「む、無理です」
「なんで」
「なんでって……!」
急すぎる。
距離が近い。
顔がいい。
心臓がもたない。
「じゃあ練習」
「れ、練習?」
「今ここで」
「無茶言わないでください!」
思わず机に突っ伏したくなる。
でも先輩は全然引かない。
「胡桃」
「うぅ……」
「呼べないなら、俺が呼ぶ」
「何をですか」
「お前のこと」
少しだけ、先輩の目がやわらぐ。
「胡桃」
名前を呼ばれただけなのに、胸がぎゅっとなる。
「俺はもう、お前を後輩とか保護対象とか、そういうので見てない」
空気が変わる。
私はゆっくり顔を上げた。
先輩の表情はまっすぐで、冗談の気配なんて少しもない。
生徒会長の処分。
旧ローズの資料の精査。
関わっていた生徒への聞き取り。
今まで静かだったものが、一気に表へ引きずり出された。
けれど、その混乱の中でも、私は不思議と前ほど怖くなかった。
母の手紙があったから。
そして、あの日ずっと隣にいてくれた人がいたから。
放課後。
夕焼けの差しこむ空き教室に、私はひとりで呼び出されていた。
差出人は、氷河ノ先輩。
話がある。放課後、三階の空き教室。
短いその文だけで、朝から心臓が落ち着かなかった。
「……話って、何だろう」
小さくつぶやいた、そのとき。
教室の扉が開く。
振り向くと、氷河ノ先輩が入ってきた。
夕日の逆光の中でもわかるくらい、いつもより少しだけ真剣な顔をしている。
「待たせた」
「い、いえ」
扉が閉まる。
教室にいるのは、私たちふたりだけ。
それだけで、急に緊張が増した。
「座るか」
「えっ、あ、はい」
言われるまま席につく。
でも先輩は座らず、私の机の前に立ったままだ。
「先輩?」
「先に言う」
低い声。
まっすぐすぎて、逃げ道がない。
「この前の礼を聞くって言っただろ」
「……っ」
忘れてない。
忘れられるわけがない。
「はい……」
「じゃあ聞く」
先輩が少しかがんで、私と視線を合わせる。
「もう、先輩じゃなくていい」
「え?」
「仁って呼べ」
一瞬、意味がわからなかった。
「む、無理です」
「なんで」
「なんでって……!」
急すぎる。
距離が近い。
顔がいい。
心臓がもたない。
「じゃあ練習」
「れ、練習?」
「今ここで」
「無茶言わないでください!」
思わず机に突っ伏したくなる。
でも先輩は全然引かない。
「胡桃」
「うぅ……」
「呼べないなら、俺が呼ぶ」
「何をですか」
「お前のこと」
少しだけ、先輩の目がやわらぐ。
「胡桃」
名前を呼ばれただけなのに、胸がぎゅっとなる。
「俺はもう、お前を後輩とか保護対象とか、そういうので見てない」
空気が変わる。
私はゆっくり顔を上げた。
先輩の表情はまっすぐで、冗談の気配なんて少しもない。



