「誘ってるな」
朔が短く言う。
「罠でもあるやろな」
蓮くんが続ける。
「それでも行くしかない」
氷河ノ先輩の声に、全員がうなずいた。
石造りの階段は暗く、ひんやりしていた。
一段上がるたびに、緊張が増していく。
上へ。
もっと上へ。
やがて最後の踊り場に出たとき、古い扉の向こうから人の気配がした。
「いる」
朔の低い声。
氷河ノ先輩が私の手を離さないまま、扉を開いた。
時計塔の最上階。
丸い部屋の中央に、数人の生徒が立っていた。
その中心にいるのは、白瀬玲央。
そして、その横に立つのは。
「会長……」
思わず声が漏れる。
生徒会長だった。
いつも穏やかで、みんなから信頼されていたあの人が、静かな顔でこちらを見ている。
「驚いた?」
玲央が笑う。
「……やっぱり中枢はお前たちか」
氷河ノ先輩の声が冷たく落ちる。
会長は小さく息をついた。
「本当は、君たちがここまで来る前に終わるはずだったんだけどね」
「終わらせるって、何をですか」
私が聞くと、会長はまっすぐ私を見た。
「君の介入を」
その言葉に、空気が一気に凍る。
「胡桃ちゃんに手ぇ出すってことやったら、そこで終わりやで」
蓮くんの笑顔が消えている。
「穏やかじゃないな」
会長はそう言ったが、目は笑っていなかった。
「君のお母さんが残したものは厄介なんだ」
「厄介、って」
「古い記録は消えたほうがいい」
玲央が軽く言う。
「昔のことなんて、今さら誰も得しない」
「違う」
私は一歩前に出た。
でも、氷河ノ先輩の手はすぐに強く私を引きとめる。
「胡桃」
「でも」
「俺の横で言え」
その一言に、私は小さくうなずいた。
「……はい」
そして先輩の隣で、まっすぐ前を見る。
「昔のことでも、傷ついた人がいたなら消していいことじゃないです」
「きれいごとだね」
会長が静かに言う。
「学園を守るには、多少の犠牲は必要なんだよ」
「それがもう間違ってるって、お母さんは言ってた」
「君のお母さんは甘かった」
「違う!」
気づけば叫んでいた。
「壊すほうが簡単です」
声が震える。
でも、止まらない。
「弱いところを握って、従わせて、消していくほうがずっと簡単です」
「……」
「でも、それじゃだめだから、母はやめたんです」
胸ポケットの上から、手紙を押さえる。
そこにある言葉が、背中を押してくれる。
「私は守る側を選びます」
静寂。
玲央がふっと息をついて、少しだけ寂しそうに笑った。
「ほんとにそっちを選ぶんだ」
「はい」
「残念」
「残念なのはお前らだ」
氷河ノ先輩が一歩前へ出る。
「証拠はもうこっちにある。終わりだ」
会長の表情が初めて少しだけ崩れた。
「提出する気?」
「当然だ」
「そうしたら学園全体が揺れるよ」
「だから何だ」
氷河ノ先輩の声に迷いはない。
「腐ってるなら、揺れてでも正すしかない」
朔が静かに、蓮くんが鋭く、いおりくんが笑みを消したまま並ぶ。
朔が短く言う。
「罠でもあるやろな」
蓮くんが続ける。
「それでも行くしかない」
氷河ノ先輩の声に、全員がうなずいた。
石造りの階段は暗く、ひんやりしていた。
一段上がるたびに、緊張が増していく。
上へ。
もっと上へ。
やがて最後の踊り場に出たとき、古い扉の向こうから人の気配がした。
「いる」
朔の低い声。
氷河ノ先輩が私の手を離さないまま、扉を開いた。
時計塔の最上階。
丸い部屋の中央に、数人の生徒が立っていた。
その中心にいるのは、白瀬玲央。
そして、その横に立つのは。
「会長……」
思わず声が漏れる。
生徒会長だった。
いつも穏やかで、みんなから信頼されていたあの人が、静かな顔でこちらを見ている。
「驚いた?」
玲央が笑う。
「……やっぱり中枢はお前たちか」
氷河ノ先輩の声が冷たく落ちる。
会長は小さく息をついた。
「本当は、君たちがここまで来る前に終わるはずだったんだけどね」
「終わらせるって、何をですか」
私が聞くと、会長はまっすぐ私を見た。
「君の介入を」
その言葉に、空気が一気に凍る。
「胡桃ちゃんに手ぇ出すってことやったら、そこで終わりやで」
蓮くんの笑顔が消えている。
「穏やかじゃないな」
会長はそう言ったが、目は笑っていなかった。
「君のお母さんが残したものは厄介なんだ」
「厄介、って」
「古い記録は消えたほうがいい」
玲央が軽く言う。
「昔のことなんて、今さら誰も得しない」
「違う」
私は一歩前に出た。
でも、氷河ノ先輩の手はすぐに強く私を引きとめる。
「胡桃」
「でも」
「俺の横で言え」
その一言に、私は小さくうなずいた。
「……はい」
そして先輩の隣で、まっすぐ前を見る。
「昔のことでも、傷ついた人がいたなら消していいことじゃないです」
「きれいごとだね」
会長が静かに言う。
「学園を守るには、多少の犠牲は必要なんだよ」
「それがもう間違ってるって、お母さんは言ってた」
「君のお母さんは甘かった」
「違う!」
気づけば叫んでいた。
「壊すほうが簡単です」
声が震える。
でも、止まらない。
「弱いところを握って、従わせて、消していくほうがずっと簡単です」
「……」
「でも、それじゃだめだから、母はやめたんです」
胸ポケットの上から、手紙を押さえる。
そこにある言葉が、背中を押してくれる。
「私は守る側を選びます」
静寂。
玲央がふっと息をついて、少しだけ寂しそうに笑った。
「ほんとにそっちを選ぶんだ」
「はい」
「残念」
「残念なのはお前らだ」
氷河ノ先輩が一歩前へ出る。
「証拠はもうこっちにある。終わりだ」
会長の表情が初めて少しだけ崩れた。
「提出する気?」
「当然だ」
「そうしたら学園全体が揺れるよ」
「だから何だ」
氷河ノ先輩の声に迷いはない。
「腐ってるなら、揺れてでも正すしかない」
朔が静かに、蓮くんが鋭く、いおりくんが笑みを消したまま並ぶ。



