最強男子の過保護な溺愛が止まりません!

夜の学園は、昼とはまるで別の顔をしていた。

 人気のない廊下。
 消えた教室の明かり。
 遠くで鳴る風の音。

 その中で、時計塔だけが静かに空へ伸びている。
 古く、高く、近づくだけで胸がざわつく場所だった。

「いよいよやな」

 蓮くんが低くつぶやく。

「はい」

 私はうなずいた。
 手の中には、母の手紙がある。
 折りたたんで胸ポケットにしまっていても、その存在はずっとあたたかかった。

「胡桃」

 隣で、氷河ノ先輩が足を止める。

「最後にもう一回言う」

「……はい」

「絶対に離れるな」

 低くて、まっすぐな声。
 私は先輩を見上げて、小さく笑った。

「わかってます」

「返事が軽い」

「軽くないです」

「なら手」

「え?」

「つなぐ」

「えっ」

「嫌か」

 その聞き方はずるい。
 でも今さら断れるわけがない。

「……嫌じゃ、ないです」

 そう答えると、先輩は何も言わずに私の手を握った。
 大きくて、熱い手。
 そのぬくもりがあるだけで、不思議なくらい足がすくまない。

「この状況で自然にいちゃつけるのすごいな」

 いおりくんがぼそっと言う。

「黙っとけ」

 氷河ノ先輩が即答する。

「でもちょっと安心しました」

 いおりくんは小さく笑う。

「胡桃先輩の顔色、さっきよりいいので」

 その言葉に、私は少しだけ肩の力が抜けた。
 ほんとに、みんないると心強い。

 時計塔の入口は、すでに開いていた。