最強男子の過保護な溺愛が止まりません!

読み終わった瞬間、完全に涙があふれた。

「……っ」

 声にならない。
 苦しい。
 悲しい。
 でも、それだけじゃなかった。

 母は、逃げたんじゃなかった。
 守ろうとしていた。
 私を。
 未来を。
 自分なりに、必死で。

「胡桃」

 低い声。
 次の瞬間、私は氷河ノ先輩の胸に引き寄せられていた。

「泣いていい」

 その一言で、とうとう堪えきれなくなる。

「……お母さん、私のこと」

「ああ」

「ちゃんと、好きでいてくれた……」

「当たり前だ」

 先輩の腕が、いつもよりやさしい。
 背中をぽん、と一度だけ撫でられて、また涙がこぼれる。

「私、勝手に……わかってるつもりで」

「うん」

「何も知らなかった」

「今知った」

 短いその言葉が、不思議なくらいあたたかかった。

「それで十分だ」

 私はしばらく、先輩の胸の中で泣いた。
 誰も何も言わなかった。
 ただ、静かに待っていてくれた。

 やがて少しだけ落ち着いて、私は涙をぬぐう。

「……ごめんなさい」

「謝るな」

 氷河ノ先輩がすぐに言う。

「でも」

「泣くのは弱いことじゃない」

 まっすぐな声。
 その言葉に、また少しだけ泣きそうになる。

 九条先輩が、静かにファイルの別の紙をめくった。

「手紙だけじゃない」

 視線がそちらへ向く。

「名簿、取引記録、当時の内部メモがある」

「証拠になるんですね」

 朔が低く問う。

「十分に」

 九条先輩はうなずいた。

「今のローズが昔と完全に同じ形じゃなくても、根はつながってる」

「なら終わらせられる」

 氷河ノ先輩の声が、冷たく静かに落ちる。

「今度こそ」

「そう簡単かな」

 九条先輩が言う。

「玲央はこれを奪えなかった時点で、次はもっと強く出る」

「来るなら来ればいい」

 蓮くんが笑う。

「こっちももう遠慮せえへん」

「でも、その前に」

 私は便箋を胸の前で握りしめた。

 みんなが私を見る。

「私、逃げません」

 自分でも驚くくらい、声ははっきりしていた。

「お母さんのこと、ちゃんと知れたから」

 怖さが消えたわけじゃない。
 でも、向く方向は決まった。

「守る側を選びたいです」

 その言葉に、氷河ノ先輩の目がゆっくり細められる。

「……ああ」

「だから、私も一緒に行きたい」

「胡桃」

「守られるだけじゃなくて、ちゃんと立ちたいです」

 しばらく沈黙が落ちた。
 氷河ノ先輩は、まっすぐ私を見ている。

 やがて、小さく息をついた。

「ほんとに止まらないな」

「先輩が言ったんですよ」

「何を」

「私が知ったら止まらないって」

 そう返すと、先輩はほんの少しだけ困ったように笑った。

「……その通りだった」

「じゃあ、認めてください」

「条件つきだ」

「条件?」

「絶対に俺のそばを離れない」

「それは」

「絶対だ」

 真剣すぎる目に、私は小さくうなずいた。

「……はい」

「あと無茶しない」

「努力します」

「努力じゃ足りない」

「うっ」

 思わず詰まると、蓮くんが吹き出した。

「そこは素直に返事しとき」

「うぅ……はい」

 少しだけ空気がやわらぐ。
 でも、次に来るのは最後のぶつかり合いだ。

 母の手紙を胸に抱えながら、私は思った。

 もう逃げない。
 怖くても、知ったから。
 守る側を選びたいって、ちゃんと言えたから。

 そのとき。
 旧温室の外で、小さく着信音が鳴った。

 いおりくんが画面を見て、表情を変える。

「……来た」

「誰からだ」

 氷河ノ先輩が問う。

「学園内の動きです」

 いおりくんの声が低くなる。

「ローズの中枢が動きます。今夜、時計塔です」

 全員の空気が、最後の戦いへ向けて一気に変わった。