最強男子の過保護な溺愛が止まりません!

旧温室の空気が、急に遠くなる。

 胡桃へ

 封筒に書かれたその文字を見つめるだけで、胸が苦しかった。
 指先が震える。
 怖い。
 でも、開けたい。

「……読む」

 かすれた声でそう言うと、氷河ノ先輩が私の横にぴたりと立った。

「無理ならやめろ」

「ううん」

 私は小さく首を振る。

「今、知りたい」

 封筒の口をそっと開く。
 中に入っていたのは、便箋が二枚。
 少し色あせているけれど、文字はまだちゃんと読めた。

 私は息を整えて、ゆっくり最初の行に目を落とす。

胡桃へ。

この手紙をあなたが読んでいるなら、私はきっと、ずっと隠していたことと向き合う時が来たのだと思います。

 喉の奥が詰まる。
 やっぱり、母の字だ。

私は昔、この学園にいました。
そして、ローズと呼ばれる場所にいました。

 胸がずきんと痛む。

最初は特別な場所だと信じていました。
選ばれた生徒だけが集まり、学園をより良くするために動く組織だと。
でも違いました。

 私は息をのんで、続きを追う。

そこは、人の弱さや秘密を握って縛る場所でした。
逆らえないようにして、従わせて、都合のいいように使う。
笑っていても、いつも誰かが誰かを傷つけていました。

 言葉のひとつひとつが重い。
 母は、そんな場所にいたんだ。

私は途中で間違いに気づきました。
でも、気づいたときにはもう深く入りすぎていて、簡単には抜けられませんでした。

それでも、最後に私は拒みました。
もう誰かを傷つけるために関わりたくなかった。
誰かの人生を壊す側にいたくなかった。

 目の奥が熱くなる。

「……お母さん」

 小さくつぶやくと、氷河ノ先輩の手がそっと私の肩に触れた。

 私はそのぬくもりに支えられるように、続きを読む。

その結果、私はローズを出ました。
でも、何もなかったことにはできませんでした。
私が知ってしまったことも、見てしまったことも、消えません。

だから私は、いくつかの記録を残しました。
もしまた同じことが繰り返されそうになったとき、止められるように。

 私ははっとして、便箋を持つ手に力をこめた。

「記録って……」

「このファイルのことだろうね」

 九条先輩が静かに言う。

 手紙の続きには、こうあった。

あなたの名前を書いたのは、怖かったからです。
もし私に何かあったとき、いつかあなたがここにたどり着く気がしたから。

 胸がぎゅっと縮む。

似てほしくないと思いながら、たぶんあなたは私に似ています。
まっすぐで、放っておけなくて、知ろうとしてしまう子になる気がしていました。

 涙がにじんで、文字が少しぼやけた。

「……ひどい」

 泣き笑いみたいな声が漏れる。

「そんなの、当たりすぎてる」

 誰かが小さく息をのんだ気配がする。
 でも私は、もう止まれなかった。

胡桃。
もしあなたがこの手紙を読んでいるなら、お願いがあります。

自分を責めないで。
私の過去は、あなたの罪ではありません。

 その一文で、涙がぽろっと落ちた。

 知らないうちに、どこかで背負っていたのかもしれない。
 母の娘だから狙われる。
 母のせいで巻きこまれた。
 そんなふうに思ってしまう自分を。

そして、壊す側ではなく、守る側を選んでください。

 玲央の言葉がよみがえる。
 壊す側か、守る側か。

 でも母は、もう答えを書いてくれていた。

誰かを傷つけて自分を守る道ではなく、苦しくても、人を守れる人でいてほしい。
それができると、私は信じています。

最後に。

 私は息を止めて、最後の行を見つめる。

あなたを遠ざけたかったのは、愛していなかったからではありません。
大切だったからです。

ちゃんと言えなくてごめんなさい。
でも、ずっと愛しています。

母より