最強男子の過保護な溺愛が止まりません!

図書準備室を出たあとも、胸の奥はまだざわざわしていた。

 母のこと。
 ローズのこと。
 旧温室に残された証拠。

 それなのに。
 腕に残る氷河ノ先輩の体温まで思い出してしまって、頭の中が全然落ち着かない。

「……顔、赤い」

 廊下を歩きながら、朔がぽつりと言った。

「えっ!?」

 思わず両手で頬をおさえる。
 そんな私の隣で、氷河ノ先輩がぴたりと足を止めた。

「朔」

「事実だろ」

「言わなくていい」

「なんで氷河先輩が焦るんですか」

 後ろから合流したいおりくんが、楽しそうに笑う。

「何かあったんです?」

「何もない」

 氷河ノ先輩が即答する。

「その速さ、逆に怪しいんですけど」

「うるさい」

「胡桃先輩、泣いてました?」

 その一言に、先輩たちの空気がわずかに変わる。
 私はあわてて首を振った。

「な、泣いてない……ちょっとだけです」

「ちょっとは泣いたんやん」

 蓮くんが呆れたように笑う。
 でもその目はちゃんとやさしい。

「九条に何かされた?」

「違います!」

 今度は大きめの声で否定してしまった。

「えっと、その……写真を見て、びっくりして」

「写真?」

 いおりくんの表情が少しだけ鋭くなる。
 私はうなずいて、母のことをみんなにも簡単に話した。

 この学園の卒業生だったこと。
 昔のローズに巻き込まれていたこと。
 そして、旧温室に証拠があるかもしれないこと。

 話し終えるころには、全員の顔つきが変わっていた。

「なるほどな」

 蓮くんが息をつく。

「だから胡桃ちゃんが狙われとるわけか」

「断定はまだできない」

 氷河ノ先輩が低く言う。

「でも可能性は高い」

「旧温室、今日行くんですか」

 いおりくんが聞く。

「行く」

 答えたのは私だった。

 みんなが一斉にこっちを見る。

「……行きたいです」

「胡桃」

 氷河ノ先輩の声が少しだけ強くなる。

「危ない」

「わかってます」

「わかってない」

「わかってます!」

 思わず言い返す。
 でも、すぐに少しだけ声を落とした。

「怖いです。危ないのもわかってる」

「なら」

「でも、今行かないと、なくなるかもしれないんですよね」

 九条先輩の言葉が本当なら、向こうも動く。
 だったら先に行かなきゃいけない。

「……私、自分のことをちゃんと知りたい」

 その言葉に、先輩はしばらく黙った。

 やがて、小さく息をつく。

「ひとりでは行かせない」

「それはもちろんです」

「俺がついていく」

「それももちろんです」

「俺も」

 朔が短く言う。

「僕も行きます」

 いおりくんがすぐに続く。

「俺もに決まっとるやろ」

 蓮くんが肩をすくめる。

「……全員なんですね」

「当たり前だ」

 氷河ノ先輩が即答する。

「お前を危険な場所に行かせるなら、なおさらだ」

 その言い方に、また胸があたたかくなる。
 でも同時に、ちょっとだけ困る。

「それだと、すごく目立ちません?」

「目立つ前に終わらせる」

 先輩は真顔だった。
 本気だ。

 その日の放課後。
 使われていない旧校舎の空き教室を借りて、簡単な作戦会議が始まった。