そんな中、氷河ノ先輩だけはずっと無言だった。
「……氷河ノ先輩?」
そっと見上げると、先輩は少し遅れて私を見た。
「何だ」
「怒ってます?」
「怒ってない」
「でもなんか静かです」
「考えてるだけだ」
「何を」
聞くと、先輩は一瞬だけ目を伏せた。
「お前をどう守るか」
「……っ」
またそれ。
そんなまっすぐに言わないでほしい。
「先輩」
「何だ」
「そういうの、さらっと言うの禁止です」
「無理だな」
「なんでですか」
「思ったことを言ってるだけだから」
だめだ。
ほんとにずるい。
顔が熱すぎて、もう前を向くしかない。
しばらくして、家の近くの曲がり角まで来たところで、蓮くんたちが立ち止まった。
「俺らはここまでにしとくわ」
「えっ」
「さすがに全員で家の前まで行ったら、今度は別の意味で事件やろ」
たしかにそうかもしれない。
「胡桃、鍵開けるまで見届ける」
氷河ノ先輩が当然みたいに言う。
「まだ行くんですか!?」
「当然だ」
「ほんま抜かりないな」
蓮くんが笑う。
朔も何も言わないけど、反対はしないみたいだった。
「じゃあ先輩」
いおりくんがにっこり笑う。
「今夜、ちゃんと僕のこと考えて眠れます?」
「考えません!」
「即答で傷つきました」
「絶対嘘!」
「でも少しは考えてくださいね」
「だから今その話しないでってば……!」
わちゃわちゃしているうちに、少しだけ怖さが遠のく。
みんなに見送られて、私は氷河ノ先輩とふたりで家の前まで歩いた。
さっきまでにぎやかだったぶん、急に静かで落ち着かない。
「……」
「……」
だめだ。
静かすぎる。
何か言わなきゃと思うのに、うまく言葉が出てこない。
「胡桃」
「は、はいっ」
名前を呼ばれて、声が裏返った。
恥ずかしい。
「今日はもう、一人で無茶するな」
「しません」
「本当に?」
「たぶん」
「たぶんじゃ困る」
少しだけ呆れた声。
でもその目は、やっぱりやさしい。
「……怖かったか」
その問いに、私は少しだけ黙った。
強がりたい。
でもこの人には、たぶん無理だ。
「……怖かったです」
正直に言うと、先輩の表情がわずかに揺れた。
「でも」
「でも?」
「先輩が来てくれたとき、すごく安心しました」
言った瞬間、自分で何を言ってるんだろうと思った。
でももう遅い。
氷河ノ先輩は、じっと私を見つめたまま動かない。
「……それ、反則だろ」
「え?」
「そんなこと言われたら、帰したくなくなる」
どくん。
心臓が大きく跳ねた。
「なっ」
「半分本気だ」
「半分!?」
「もう半分は、かなり本気」
「同じみたいなものじゃないですか!」
思わず抗議すると、先輩はほんの少しだけ笑った。
その笑顔がずるい。
こんなときに笑うなんて反則だ。
「……今日はちゃんと寝ろ」
そう言って、先輩の手が私の頭にそっと触れる。
「何かあったらすぐ呼べ」
「はい……」
「朝も迎えに来る」
「えっ」
「嫌か」
またそれだ。
その聞き方はずるい。
「……嫌じゃ、ないです」
小さく答えると、先輩の目が少しやわらかくなる。
「なら決まりだ」
そうして先輩は、ようやく帰るために一歩下がった。
でも私は、なぜかその背中が離れていくのを少しさみしく感じてしまって。
「氷河ノ先輩!」
気づけば呼び止めていた。
先輩が振り返る。
「どうした」
「……あの」
何を言いたかったのか、自分でもわからない。
ただ、離れてほしくなかっただけ。
すると先輩は、私の顔を見て何か察したみたいに小さく息をついた。
「おやすみ、胡桃」
その声が、びっくりするほどやさしかった。
「っ……おやすみなさい」
扉を閉めたあともしばらく、私はその場から動けなかった。
でもその夜。
ようやくベッドに入って目を閉じた私は、すぐに眠れなかった。
玲央の言葉。
九条先輩の忠告。
ローズの警告。
それから、氷河ノ先輩の体温。
いろんなものが頭の中を回る。
そして、うとうとしかけたころ。
枕元のスマホが小さく震えた。
こんな時間に誰だろう。
画面を見ると、知らない番号からのメッセージが一件。
おやすみ、お姫様。次はふたりで話そう。
背筋が一気に冷えた。
「……氷河ノ先輩?」
そっと見上げると、先輩は少し遅れて私を見た。
「何だ」
「怒ってます?」
「怒ってない」
「でもなんか静かです」
「考えてるだけだ」
「何を」
聞くと、先輩は一瞬だけ目を伏せた。
「お前をどう守るか」
「……っ」
またそれ。
そんなまっすぐに言わないでほしい。
「先輩」
「何だ」
「そういうの、さらっと言うの禁止です」
「無理だな」
「なんでですか」
「思ったことを言ってるだけだから」
だめだ。
ほんとにずるい。
顔が熱すぎて、もう前を向くしかない。
しばらくして、家の近くの曲がり角まで来たところで、蓮くんたちが立ち止まった。
「俺らはここまでにしとくわ」
「えっ」
「さすがに全員で家の前まで行ったら、今度は別の意味で事件やろ」
たしかにそうかもしれない。
「胡桃、鍵開けるまで見届ける」
氷河ノ先輩が当然みたいに言う。
「まだ行くんですか!?」
「当然だ」
「ほんま抜かりないな」
蓮くんが笑う。
朔も何も言わないけど、反対はしないみたいだった。
「じゃあ先輩」
いおりくんがにっこり笑う。
「今夜、ちゃんと僕のこと考えて眠れます?」
「考えません!」
「即答で傷つきました」
「絶対嘘!」
「でも少しは考えてくださいね」
「だから今その話しないでってば……!」
わちゃわちゃしているうちに、少しだけ怖さが遠のく。
みんなに見送られて、私は氷河ノ先輩とふたりで家の前まで歩いた。
さっきまでにぎやかだったぶん、急に静かで落ち着かない。
「……」
「……」
だめだ。
静かすぎる。
何か言わなきゃと思うのに、うまく言葉が出てこない。
「胡桃」
「は、はいっ」
名前を呼ばれて、声が裏返った。
恥ずかしい。
「今日はもう、一人で無茶するな」
「しません」
「本当に?」
「たぶん」
「たぶんじゃ困る」
少しだけ呆れた声。
でもその目は、やっぱりやさしい。
「……怖かったか」
その問いに、私は少しだけ黙った。
強がりたい。
でもこの人には、たぶん無理だ。
「……怖かったです」
正直に言うと、先輩の表情がわずかに揺れた。
「でも」
「でも?」
「先輩が来てくれたとき、すごく安心しました」
言った瞬間、自分で何を言ってるんだろうと思った。
でももう遅い。
氷河ノ先輩は、じっと私を見つめたまま動かない。
「……それ、反則だろ」
「え?」
「そんなこと言われたら、帰したくなくなる」
どくん。
心臓が大きく跳ねた。
「なっ」
「半分本気だ」
「半分!?」
「もう半分は、かなり本気」
「同じみたいなものじゃないですか!」
思わず抗議すると、先輩はほんの少しだけ笑った。
その笑顔がずるい。
こんなときに笑うなんて反則だ。
「……今日はちゃんと寝ろ」
そう言って、先輩の手が私の頭にそっと触れる。
「何かあったらすぐ呼べ」
「はい……」
「朝も迎えに来る」
「えっ」
「嫌か」
またそれだ。
その聞き方はずるい。
「……嫌じゃ、ないです」
小さく答えると、先輩の目が少しやわらかくなる。
「なら決まりだ」
そうして先輩は、ようやく帰るために一歩下がった。
でも私は、なぜかその背中が離れていくのを少しさみしく感じてしまって。
「氷河ノ先輩!」
気づけば呼び止めていた。
先輩が振り返る。
「どうした」
「……あの」
何を言いたかったのか、自分でもわからない。
ただ、離れてほしくなかっただけ。
すると先輩は、私の顔を見て何か察したみたいに小さく息をついた。
「おやすみ、胡桃」
その声が、びっくりするほどやさしかった。
「っ……おやすみなさい」
扉を閉めたあともしばらく、私はその場から動けなかった。
でもその夜。
ようやくベッドに入って目を閉じた私は、すぐに眠れなかった。
玲央の言葉。
九条先輩の忠告。
ローズの警告。
それから、氷河ノ先輩の体温。
いろんなものが頭の中を回る。
そして、うとうとしかけたころ。
枕元のスマホが小さく震えた。
こんな時間に誰だろう。
画面を見ると、知らない番号からのメッセージが一件。
おやすみ、お姫様。次はふたりで話そう。
背筋が一気に冷えた。



