最強男子の過保護な溺愛が止まりません!

「そんな顔しないで」

 瑞希先輩が一歩近づく。

「君が悪いわけじゃない。君はただ、まっすぐすぎた」

「来るな」

 氷河ノ先輩が前に立ちふさがる。

「これ以上近づいたら容赦しない」

「容赦しない、か」

 瑞希先輩は少しだけ目を伏せて、それから静かに笑った。

「本当に彼女を守れるのなら、そうすればいい」

「何だと」

「氷河くん。君は気づいてるはずだ」

 瑞希先輩の声が、すっと低くなる。

「この学園の中だけで終わる話じゃないってことくらい」

 その一言で、氷河ノ先輩の表情が固まった。

 知ってる。
 やっぱり先輩は何か知ってる。

「……胡桃、こっち来い」

 私の手をつかんで、先輩が自分のそばへ引き寄せる。
 強い力。
 でも痛くない。

「氷河先輩、必死すぎ」

 いおりくんが笑う。
 けれどその目は、九条先輩から一瞬も逸れていない。

「でも正解です。今の先輩、あんまり胡桃先輩の近くに置きたくない」

「天瀬くんまでひどいな」

 瑞希先輩は相変わらず穏やかだった。

「僕はただ、事実を教えてあげただけだよ」

「じゃあ、その事実の続きも教えてくださいよ」

 蓮くんが口元だけ笑う。

「ローズの今の中心は誰なんです?」

「それを知ってどうするの」

「決まってるやろ」

 蓮くんの声が低くなる。

「胡桃ちゃんにこれ以上ちょっかい出すなら、潰すだけや」

 一瞬。
 瑞希先輩の目が、ほんの少しだけ冷えた。

「君たちみたいな感情だけで動く人間が、いちばん扱いやすいんだけどね」

「……っ」

 その場の空気が完全に変わった。

 今の言い方。
 今のは、優しい九条先輩じゃない。

「先輩」

 私の声に、瑞希先輩が視線を向ける。

「やっぱり、先輩は敵なんですか」

 聞いた瞬間、胸が痛んだ。
 やさしくしてくれた時間が、全部嘘だったみたいで嫌だった。

 でも瑞希先輩は、すぐには答えなかった。

「……敵、か」

 少しだけ寂しそうに笑う。

「そう見えるなら、そうなんだろうね」

「はっきりしろ」

 氷河ノ先輩が言う。

 すると瑞希先輩は、私だけを見て静かに口を開いた。

「僕は君を傷つけたくない」

「え……」

「でも、必要なら利用する」

 その言葉に、息が止まる。

「君はそのくらい価値がある」

 やさしい声で、そんなことを言わないで。
 怖い。
 なのに目が離せない。

「最低やな」

 蓮くんが吐き捨てる。

「そうかもしれない」

 瑞希先輩は否定しない。

「でも、この学園で生き残るには、きれいごとだけじゃ無理なんだよ」

「胡桃はお前らとは違う」

 氷河ノ先輩の声は、驚くほどまっすぐだった。

「汚いことに巻き込ませない」

「もう巻き込まれてるよ」

 瑞希先輩が静かに返す。

「それでも守れると思う?」

 その問いに、氷河ノ先輩は迷わなかった。

「守る」

 短く、強く。

「何があっても」

 胸が、熱くなる。

 その瞬間だった。

 廊下の奥の窓ガラスが、突然大きな音を立てて割れた。

「きゃっ!」

 反射的に目を閉じる。
 ガラスの破片。
 冷たい風。
 誰かの足音。

「伏せろ!」

 氷河ノ先輩の声と同時に、強い腕が私を抱き込んだ。

 耳元で、何かが床に突き刺さる音がする。

 恐る恐る目を開けると、床には一本の黒い矢のようなものが刺さっていた。
 その先に、小さな紙が巻かれている。

「……来たか」

 瑞希先輩が低くつぶやく。

「来たって、何が」

 私が震える声で聞くと、彼は窓の外を見たまま答えた。

「本物のローズだよ」