最強男子の過保護な溺愛が止まりません!

暗い廊下の先。
 古い窓から差しこむ月明かりの中に、九条瑞希先輩は静かに立っていた。

「みんな、こんな時間にそろってどうしたの」

 いつも通りのやさしい声。
 やわらかな笑み。
 乱れひとつない制服姿。

 なのに、その場にいる誰ひとりとして、安心した顔はしなかった。

「それ、こっちの台詞やろ」

 蓮くんが半歩前に出る。
 さっきまでの軽い調子は消えていた。

「九条先輩こそ、何してるんですか」

「見回りだよ」

 瑞希先輩はさらりと言う。

「旧資料棟に明かりが見えた気がしたから、念のため確認に来たんだ」

「見回りを一人で?」

 朔が低く返す。

「先生に頼まれることもあるからね」

 完璧すぎる答え。
 自然すぎて、逆に怖い。

 私は氷河ノ先輩の後ろからそっと顔をのぞかせた。
 すると瑞希先輩の視線が、まっすぐ私に向く。

「相沢さん」

「は、はい」

「怖い思いはしていない?」

 やさしい声。
 だけど私は、昨日言われた言葉を思い出していた。

 知りすぎるのは、危ないよ。

 喉が少しだけ乾く。

「……だ、大丈夫です」

「そう。ならよかった」

 そう言って微笑む。
 でもその目は、笑っていない気がした。

「九条」

 氷河ノ先輩の声が冷たく落ちる。

「その紙、誰に書かせた」

 一瞬、空気が止まった。

 瑞希先輩は小さく首をかしげる。

「紙?」

「とぼけるな」

「何の話をしてるのかわからないよ」

 やわらかい微笑みのまま。
 でも、目だけがほんの少し細くなる。

「氷河くんこそ、相沢さんにずいぶん執着してるみたいだね」

「質問に答えろ」

「怖いな」

 瑞希先輩はくすっと笑った。

「そんなに怒ると、彼女が怯えるよ」

「……っ」

 確かに、少し怖い。
 でも今はそれ以上に、瑞希先輩の落ち着き方が不気味だった。

「先輩」

 気づけば、私は一歩前に出ていた。

「昨日、私に言いましたよね」

 自分でも驚くくらい、声は震えていなかった。

「知りすぎるのは危ないって」

 その瞬間。
 瑞希先輩の笑みが、ほんの少しだけ薄くなった。

「覚えてたんだ」

「……はい」

「じゃあ、忠告は無駄だったみたいだ」

 やさしい声のまま。
 でもその言葉には、ひやりとした刃があった。

 氷河ノ先輩の手が、私の肩を引き寄せる。