最強男子の過保護な溺愛が止まりません!

「胡桃」

 低い声が、教室の空気をかすかに震わせた。

 振り向けば、氷河ノ先輩が教室の入り口に立っていた。
 その目はまっすぐ九条先輩に向けられている。

「……氷河くん」

 九条先輩の笑みが、ほんの少しだけ薄くなる。

「朝からどうしたの」

「別に」

 氷河ノ先輩はそう言いながら、私の机の横まで来た。

「体調悪いのか」

「えっ。だ、大丈夫です」

「ならいい」

 そう言ったくせに、先輩は私の机に手をついて、さりげなく九条先輩との間に入る。

 え。
 これってもしかして。

「氷河くん、過保護すぎない?」

 九条先輩がやわらかく笑った。

「転校してきたばかりの子だよ。少しくらい周りが気にかけてもいいだろう」

「必要ない」

「ずいぶんはっきり言うね」

「……」

 空気がぴんと張る。
 私は二人を見比べて、おろおろするしかない。

 な、なんで。
 どうしてこんなに空気が重いの。

「先輩」

 気づけば、口が勝手に動いていた。

「昨日の放課後、どこにいましたか」

 その瞬間。
 九条先輩の目が、ほんのわずかに細くなった。

「どうして?」

「えっと、それは……」

 しまった。
 直球すぎたかも。

 でも、九条先輩はすぐにいつもの笑みに戻る。

「図書室だよ。調べものをしていたんだ」

「ほんとですか?」

「疑ってる?」

 やさしい声。
 責めるような響きはない。
 なのに、私はうまく息ができなくなる。

「い、いえ、そんな……」

「ふふ。相沢さんは正直だね」

 くすりと笑って、九条先輩は私の頭に軽く手を置いた。

「気になることがあるなら、いつでも聞いて」

 その手つきはやさしい。
 けれど、なぜか背筋がぞくっとした。

「ただし」

 九条先輩は、私にだけ聞こえるくらいの声で続ける。

「知りすぎるのは、危ないよ」

「……え」

 思わず目を見開いたときには、もう先輩は一歩下がっていた。

「じゃあ、またね」

 何事もなかったように微笑んで、教室を出ていく。
 残された私は、しばらく動けなかった。

 今の、どういう意味。
 やっぱりただの優しい先輩じゃない。

「胡桃」

「ひゃっ」

 今度は氷河ノ先輩に呼ばれて、また変な声が出る。

「お前、あいつに何を言われた」

「えっ」

「顔色が変わった」

 鋭すぎる。
 私は反射的に首を振った。

「な、何でもないです」

「嘘だな」

「う……」

「胡桃」

 先輩の声が低くなる。
 その目は真剣そのものだった。