特訓開始のひと言のあと、最初に空気を壊したのは、教室のいちばん後ろにいた男子だった。
「……俺、やっぱ無理」
低い声だった。
さっきまで笑っていた空気が、そこで少し止まる。
白雪小春はその声のしたほうを見る。
壁にもたれるように立っていたのは、背の高い男子生徒だった。制服のネクタイはゆるく、前髪が少し長い。目立つのを避けるように立っているのに、不思議と存在感がある。
「無理って、何が?」
「全部。演技も、人前に立つのも」
「でも、さっきちゃんと返事してくれたよね」
「返事くらいするだろ」
「うん。その声、すごくいい」
男子がぴたりと黙る。
「……は?」
「低くてやわらかいのに、ちゃんと通る声。後ろまで届く声だよ」
「急に何」
「才能の話」
小春はまっすぐに彼を見る。
自信がない人は、褒められてもすぐには信じない。だからこそ、適当に言っちゃだめだ。
「名前、なんていうの?」
「白峰奏斗」
「奏斗くんね。ちょっと前に出て」
「やだ」
「即答だ」
「当たり前だろ」
教室に小さな笑いが起きる。
でも、小春は引かなかった。
「じゃあここでいいから、一言だけ読んでみて」
「読まない」
「お願い」
「……」
「お願い、奏斗くん」
少しだけ首をかしげてみせると、白峰くんの肩がぴくっと揺れた。
よし。あとひと押し。
「……俺、やっぱ無理」
低い声だった。
さっきまで笑っていた空気が、そこで少し止まる。
白雪小春はその声のしたほうを見る。
壁にもたれるように立っていたのは、背の高い男子生徒だった。制服のネクタイはゆるく、前髪が少し長い。目立つのを避けるように立っているのに、不思議と存在感がある。
「無理って、何が?」
「全部。演技も、人前に立つのも」
「でも、さっきちゃんと返事してくれたよね」
「返事くらいするだろ」
「うん。その声、すごくいい」
男子がぴたりと黙る。
「……は?」
「低くてやわらかいのに、ちゃんと通る声。後ろまで届く声だよ」
「急に何」
「才能の話」
小春はまっすぐに彼を見る。
自信がない人は、褒められてもすぐには信じない。だからこそ、適当に言っちゃだめだ。
「名前、なんていうの?」
「白峰奏斗」
「奏斗くんね。ちょっと前に出て」
「やだ」
「即答だ」
「当たり前だろ」
教室に小さな笑いが起きる。
でも、小春は引かなかった。
「じゃあここでいいから、一言だけ読んでみて」
「読まない」
「お願い」
「……」
「お願い、奏斗くん」
少しだけ首をかしげてみせると、白峰くんの肩がぴくっと揺れた。
よし。あとひと押し。



