その夜。家に帰った私は、リビングのソファで琴葉にテストの結果を報告した。
「十二位だったよ」
「十二位……」
琴葉は一瞬、複雑そうな顔をした。それから、無理やりみたいに口角を上げる。
その一瞬の表情に、私は、はっとした。
ずっとトップを守ってきた琴葉にとって、自分の記録が今までとは違う数字になることはきっと、思っていたより大きな揺らぎのはずだ。
喜んでくれているのは本当なのに、その奥に小さな戸惑いも隠れている。
私はそれに気づかないふりをして、次の言葉を待った。
「すごいよ、彩葉ちゃん。あの状態から、十二位なんて」
「でも、これ、琴葉の記録になっちゃうんだよね。選考、大丈夫かな」
「……分からない」
琴葉は、正直に言った。
「でも、今さら心配しても仕方ないよ。それに」
膝の上で、手をそっと握る。
「彩葉ちゃんが、自分の言葉で話せたこと。わたし、それが、いちばん嬉しい」
その一言に、鼻の奥がつんとした。
「あと九日、だね」
「うん。あと九日」
二人で同じ数字を、口の中で確かめ合った。
私は、ノートに数字を書きこむ。
【選考日まで あと9】
星印の横に、今日は丸をつける気になれなかった。
窓の外で、夏の気配がじりじりと濃くなっている。
もうすぐ、七月が終わる。



