試験前の最後の放課後。図書室を出ると、外はもう夕方だった。
「送っていく」
加賀見くんが、当たり前みたいに言う。
「今日は、歩きでいい? 車、酔いそうで」
「勉強しすぎて?」
「たぶん」
並んで、校門を出る。日が長くなって、空はまだ明るいオレンジ色だった。
「これ」
加賀見くんが、カバンから教科書を取り出した。私の教科書だ。ところどころに、小さな付箋が貼ってある。
「テストに出そうなところ、印つけといた」
付箋には、きちんとした字で短い言葉が書いてあった。
『ここ、出る』
『去年もこの形式』
『公式、逆から確認』
「加賀見くんって、いつも几帳面だよね」
「父の受け売りだよ。カルテは、あとで見返す人のために書け、って、よく言われる」
「病院の、先生の家だもんね」
「まあな」
加賀見くんはそれだけ言って、少し早足になった。私は、その背中を追いかける。
駅までの道。二人分の足音だけが、アスファルトに響いていた。
「加賀見くんは、勉強教えるの、好きなの?」
「……好きって、考えたことなかったけど」
間があって、続きが来た。
「分かってなかったやつが、分かるようになる瞬間、見るのは嫌いじゃない」
その横顔は夕日のせいか、いつもより柔らかく見えた。
駅の改札の前で、私たちは立ち止まった。
「じゃあ、また明日」
「うん。今日は、ありがとう」
「別に」
そう言って加賀見くんは、後ろを向いて歩き出した。数歩、進んでから、ふと振り返る。
「椎名さん」
「なに?」



