「え、そ、そうかな」
「前は、もっと角ばってた気がするけど。今のほうが、丸っこいっていうか」
「た、体調崩してから、力の入れ方が、変わったのかも」
紬さんはそれ以上、何も言わなかった。ただ、ノートを閉じるとき、視線だけをもう一度、私の顔に向けた。何かを確かめるみたいに。
その目に、今度は探るような鋭さではなく、もっと静かな、じっと見定めるような色があった。
……この人、私を疑ってるんじゃなくて、私を観察してる。
前より、ずっと落ち着いた反応だからこそ、私はうまく言葉にできない、いやな予感がした。
「はい、次! 英語のプリント、みんなで丸つけしよ!」
日和ちゃんが、空気を変えるように明るい声を出す。
ふう、助かった。
「椎名さん。この単語、また間違えてる」
加賀見くんが、赤ペンで丸をつけながら言う。
「三回目だぞ、それ」
「うっ……」
「覚え方、教えてやろうか」
「教えて教えて」
「『複雑』って書いて、コンプリケイテッド。……もう覚えたか?」
「一回じゃ無理だよ!」
北条さんが、口元を押さえて肩を震わせた。
「椎名さんと加賀見くんってなんか、先生と生徒みたいだね」
「そ、そんなんじゃ」
「べつに、そういうんじゃ」
私と加賀見くんの声が、ぴったり重なった。北条さんが、にんまりと笑う。日和ちゃんも、こっそり口元をゆるめていた。



