それから毎晩、日付が変わる少し前まで机に向かう日が続いた。
明凰学園での一日を、琴葉のフリをして過ごし、家に帰れば、今度は自分自身として、遅れを取り戻す。気を抜く時間が、どこにもなかった。
テストまで、残り三日になった朝。鏡に映った自分の顔には、うっすらと隈ができていた。
「椎名さん、ゾンビみたいな顔してるぞ」
昼休み。購買の列に並んでいると、後ろから加賀見くんの声がした。
「し、失礼な」
「寝てないだろ」
「べ、勉強してただけだよ」
図星を突かれて、言葉に詰まる。加賀見くんは、それ以上何も聞かずに、購買の棚のほうへ歩いていった。
午後の授業が始まる直前。机の上に、ことん、と、何かが置かれた。
栄養ドリンクの瓶と、小さなおにぎりが一つ。
顔を上げると、加賀見くんはもう自分の席に着いて、教科書を開いていた。こちらを見もしない。
「……これ」
「別に、お前のためじゃない。……買いすぎただけだ」
不機嫌そうに言い捨てて、加賀見くんは教科書のページを、少し乱暴にめくった。
私はビンの蓋を開けながら、こみあげてくる笑いをこらえられなかった。
「ありがとう」
「気にすんな」
素っ気ない返事の裏で、確かに気にかけてくれている。その不器用な優しさが、疲れた体にじんわりとしみこんでいった。



