「入学したときから、ずっと。でも、話したことなんて、ほとんどなかったの。かっこよくて、優秀で、完璧で、雲の上の人みたいだったから」
琴葉は膝の上で、両手をぎゅっと握った。
「でも、今回のことで、加賀見くんが彩葉ちゃんに送ってくれたメッセージとか、聞いてると……やっぱり、好きなんだなって、分かったの」
「琴葉……」
「だけど、今は留学の選考が一番。だから、この気持ちは、しまっておくって決めたの。彩葉ちゃんにだけ、聞いてほしかった」
琴葉は、照れたように笑った。
私は、なんて答えればいいか分からなかった。
加賀見くんの声が、耳の奥でまた聞こえた気がした。
『聞かないよ』
『今日の走りは、俺、好きだった』
あの言葉は、誰に向けられたものだったんだろう。
琴葉に? それとも、あのグラウンドで走っていた私に?
「……そうなんだ」
やっと、それだけ答えた。
加賀見くんへの気持ちを、これからは琴葉にも隠し続けなきゃいけない。
琴葉に嘘をつくことが、また一つ増えた。フリをしていることの嘘と、この気持ちを隠す嘘。二つの嘘が重なって、のしかかってくる。
「彩葉ちゃんは? 何か、なかった?」



