「え、いいの?」
「気が変わらないうちに、早く決めなさいよ」
「じゃあ……紬さん、で」
「よろしい」
紬さんは、ふん、と、鼻を鳴らした。でも、その口元はかすかに緩んでいた。
日和ちゃんは、相変わらず何も聞いてこなかった。
ただ、時々、こちらをじっと見て、「無理しないでね」と、いつもより少しだけ、長く見つめてくることが増えた。
◇
そうして迎えた、三週間目の水曜日。
学校が終わって家に帰ると、玄関に見慣れない大きな荷物が置いてあった。花柄のボストンバッグ。
「……琴葉?」
リビングのドアを開けると、パジャマ姿の琴葉がソファに座っていた。頬に、少し赤みが戻っている。
「彩葉ちゃん、おかえり」
「え、琴葉。今日、退院だったの? 聞いてない!」
「ふふ、驚かせようと思って。お医者さんが、『これなら、家で療養できます』って」
「じゃあ、学校は?」
「生活には戻っていいけど、学校のような負荷の大きい環境には、もう少し慣らしてからにしましょうって、院長先生に言われたの。……だから彩葉ちゃんには、もうしばらく、お願いすることになっちゃうんだけど」
少し申し訳なさそうに、琴葉は続けた。



