その子は、私の顔を見て小さく目を見開いた。
視線が、私の顔から制服の胸元、そして足元へと素早く動く。
息をのむような間があった。
「あ……ごめん。人違いかと思って」
「え?」
「いや、知り合いに似てて。……売店なら、あっちだよ」
言い直すように、男の子は廊下の先を指さした。
今の間は、何だったんだろう。不思議に思いながらも私は、聞き返さなかった。
「あ……ありがとう」
「お見舞い?」
「うん。妹がさっき、急に倒れて入院することになって」
「そっか」
男の子はそれだけ言うと、少し考えるような顔をした。
「急に運ばれてきたりすると、本人はもちろんだけど、家族も大変だったろ」
見ず知らずの相手なのに、その一言は、すとんと胸に落ちてきた。張りつめていたものが、少しだけ緩む。
「……うん。ちょっと、びっくりした」
「無理すんなよ、お姉さんも」
男の子はそう言うと、軽く手を振って、廊下の向こうへ歩いていった。
すれ違いざまにふっと香ったのは、どことなく大人っぽい、清潔な石鹸の匂いだった。
名前を聞く余裕も、なかった。
──変な子。でも、なんかほっとしたな。
そんなことを思いながら私は、教えてもらった方向に歩き出した。



