「琴葉ちゃん、髪切ったのかな? でも、あのきれいな長い髪、切るわけないよね。他人のそら似ってやつ?」
「そ、そうだよ。私、ずっと家にいたもん」
「だよね。変なこと言って、ごめん。じゃあね、お大事に」
美咲は手を振って、部屋を出ていった。階段を下りる足音が、遠ざかっていく。
静かになった部屋で、私は布団の中から、そっとウィッグを引っぱり出した。
髪が短くて、明凰の制服を着ていた子。体育祭の日。駅の近く。写真。
……あ。
頭の中で、何かがぱちんと弾けた。
それ、私だ。
体育祭のあと、その足で琴葉の病院に向かった。
駅のトイレでウィッグを外したのは、琴葉の前でだけは、「彩葉」のままでいたかったからだ。
三つ編みを外して、短い髪に戻ると肩の力が抜けた。
明凰学園の制服のまま、短い髪の私が駅を出た。あのとき、通りすがりの誰かに、写真を撮られていたのだ。
その写真を、もし明凰の誰かが見たら……。
琴葉と同じ顔で、髪だけ違う女の子。
……そんなの、あっという間にばれてしまう。
窓の外で、夕方のカラスが、かあかあと鳴いた。
私はノートを開いて、数字を確かめる。
【選考日まで あと32】
まだ、32。日曜だから、当然だ。それでも、嘘が増えるたびに、後ろめたさも増えていく。それなのに、不思議と足だけは止まらなかった。
ミサンガを、そっと手首に巻く。赤と白の糸が、手首に軽く食いこんだ。
それから色紙を胸に抱いて、私は目を閉じた。
──明日からも、私は琴葉になる。



