一階に下りると、父がリビングで新聞を広げていた。日曜の朝は、いつもこうだ。
「おう、彩葉。昨日は大活躍だったらしいな」
「え、なんで知ってるの?」
「昨夜、琴葉の病室に寄っただろう。あいつ、電話で嬉しそうに話してたぞ。『お姉ちゃんが、リレーで走ったの』って」
そうだった。体育祭のあと、どうしても琴葉に報告したくて、病院に寄ったんだった。
「うん。……ちょっとだけ、あの子の顔を見てきた」
「そうか」
父は、新聞の向こうで口元をゆるめた。
「彩葉。お前、本当に無理してないか?」
「してないよ。むしろ、思いきり体を動かせて、スッキリした」
「なら、いい」
それだけ言うと、父はまた新聞に目を戻した。短い言葉なのに、心がほんのり温かくなった。
部屋に戻ると、スマホが震えた。琴葉からだった。
【彩葉ちゃん、たいへん! 加賀見くんから、メッセージが来たの】
続けて、画面に文字が並ぶ。
【『昨日はお疲れさま。足、湿布しておいて。今日はゆっくり休んで』って】
……それ、昨日走った「私」への言葉だ。でも、届いたのは琴葉のスマホ。
加賀見くんにとって、連絡を送る『特別な相手』は、やっぱり琴葉なんだ。私への言葉も、琴葉の画面を介さないと届かない。
【どう返せばいいかな。ドキドキして、手が震えちゃう】
琴葉の文字が、いつもよりはしゃいでいる。



