琴葉のフリをしている自分が、こんな気持ちを持ってしまっていいのか、分からなかった。
もし、琴葉が本当に加賀見くんのことを気になっていたら。私は今、妹の姿を借りて、妹の想い人に恋をしてしまったことになる。
想像すると、指先が冷たくなった。
この気持ちは、彩葉の気持ちなのか。それとも、椎名琴葉としてここにいる間に、紛れこんでしまった何かなのか。
自分でも、区別がつかなくなっていた。
それでもこの温かさを、なかったことにはできそうになかった。
私は濡れた前髪を、そっとかき上げた。
◇
その夜、ノートの数字を書き換えた。
【選考日まで あと33】
いつもの二重丸の横に、星を三つ書きこむ。今日は、二重丸だけじゃ、足りなかった。
聞かれなかった。それが嬉しくて、少しだけ怖かった。
──もし、この気持ちに気づかれたら。ううん、それよりも先に、琴葉に何て言えばいいんだろう。
ペンを持つ手が、ノートの上で、しばらく止まったままだった。



