「もしかして、大丈夫じゃない?」
「平気だ。ちょっと、内出血の色が苦手なだけで」
「病院の跡継ぎなのに?」
「これとそれとは、別だろ」
ムキになって言い返す加賀見くんに、私は思わず、噴き出してしまった。
あの完璧な段取り力の裏に、こんな弱点があったなんて。
「宮川さん、足、大丈夫?」
「捻挫よ。しばらく、走れないと思うわ」
私が声をかけると、宮川さんはそっぽを向いた。それから、ぼそりと言った。
「……あなたが、繋いでくれてよかった」
「え」
「あたしの分まで、走ってくれて。ありがとう」
顔は横を向いたままだったけれど、声のトーンがいつもより柔らかかった。
「それと……なくしたバトンのこと。あなたが自分から言ったとき、ちょっとだけ、見直したのよ」
「え、そうなの?」
「二度は言わないから。聞こえなかったことにして」
その横顔が少しだけ可愛くて、私は吹き出してしまった。
「何よ」
「なんでもない!」
入場門の小さな屋根を、雨がぱらぱらとたたいている。宮川さんと初めて、同じ景色を見ている気がした。



