身代わり特待生、はじめました。~双子の妹のフリして、御曹司に恋してます~


「みんな、下がって!」

突如、大きな声が響いた。加賀見くんだった。

「椎名さん、雨で冷えて足がつったみたいだ。少し休ませる。道を開けて!」

人の輪をかき分けて、加賀見くんが、私の前に立つ。私とみんなの間に、壁を作るみたいに。

「……こっち」

低い声で言って、彼は私の手首を軽くつかんだ。

「入場門の裏は、誰も来ない。──救護テントは、反対側だから」

最後の一言に、私は、はっとした。

どうして、それを……。

聞き返す前に、加賀見くんはもう歩き出していた。

◇

入場門の裏の、道具置き場。雨のしずくが、屋根からぽたぽたと落ちている。

「後ろ、向いてる。見てないから」

加賀見くんは、くるりと背中を向けた。

「十秒で、直せよ」

「十秒!?」

震える手で、ウィッグを直す。十二本のピンのうち四本は、いつのまにか、どこかへ飛んでいた。残りで、なんとか押さえつける。

三つ編みの根元を指でならして、深く息を吐いた。

「……直った」

「そうか」

加賀見くんは振り向かないまま、それだけ言った。

どうして、何も聞かないの?

……って。聞かれたら、答えられないのに。聞かれないことが、こんなに落ち着かないなんて、思わなかった。

入場門の陰から出ると、宮川さんがパイプ椅子に座っていた。

足首には、望月くんが救護テントから持ってきてくれた、氷のうが当てられている。腫れて、内出血で少し赤黒くなっている。

隣の加賀見くんが、そちらをちらっと見て、すっと顔を背けた。

「……加賀見くん?」

「な、なんでもない」

声が、かすかに上ずっている。よく見ると、顔が心なしか青白い。