左手で私は、三つ編みの根元をぐっと押さえた。腕が振れなくなって体がブレる。それでも歯を食いしばり、必死に脚を回す。
視界の先に、アンカーの位置で構える加賀見くんの姿が見えた。
こちらに腕を伸ばして、待っている。あと十歩。あと五歩。
「加賀見くん!」
私が差し出したバトンを、加賀見くんの手がしっかり受け取った。
「任せろ」
私にだけ聞こえる低い声。
その言葉を残して、彼は弾かれたように走り出した。
バトンを渡した反動で、足がもつれかけた。膝に手をつき、息を整えながら、その背中を目で追った。
速い。
すらりとした体が、雨を切り裂いて滑るように駆けていく。足元で弾ける水しぶき。雨に濡れたシャツが風を孕んで大きくはためく。
ずっと進行係として冷たいくらい冷静だった彼が、今は牙を剥くように、前だけを見据えていた。
「加賀見くーん!」
「いけー! 抜けー!」
雨の音をかき消すほどの歓声が、グラウンドを揺らす。



