鼓動が速くなりだしたそのとき、カーブの内側で、宮川さんの体が大きく傾いた。
「宮川さん!?」
誰かが、息をのむ。足首が、おかしな方向に曲がったのが、遠目にも分かった。
彼女の片手が、地面につく。
倒れる、と思った。でも、宮川さんは倒れなかった。
歯を食いしばって、手のひらを地面から引きはがす。
立ち上がり、片足を引きずりながら、それでも、前へ。一歩、また一歩。
バトンを握った腕は、決して下ろさなかった。他のクラスの選手が、次々と追い抜いていく。それでも、宮川さんの目は私だけを見ていた。
その顔が、悔しさでゆがんでいる。
私は思わず、待機所の線から体が前に出かけた。
今すぐ走っていって、あの子を支えたい。でも、それはできない。私にできるのは、バトンを受け取る準備だけだ。
いつもなら助走を始める位置だったけれど、私はラインの手前に留まったまま、必死に手を伸ばしてバトンを待った。
──ぽつり。
頬に、冷たいものが当たった。雨だ。
「……早く」
目の前まで来た宮川さんは唇をかんで、バトンを私の手のひらに押しこんだ。汗と雨で、濡れていた。
「あたしの分まで、走って」
彼女の目に、悔し涙が浮かんでいた。



