身代わり特待生、はじめました。~双子の妹のフリして、御曹司に恋してます~


──正気なの? と言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。

代わりに、じわりと湧き上がってきたのは、うまく名前のつけられない感情だった。

ずっと「優秀な妹の影」だった私。

運動会でどれだけ一位を取っても、大人たちの目はいつも、静かに机に向かう琴葉のほうに向いていた。何をやっても中途半端で、誇れるものなんて、一つもなかった私。

そんな私の手を、あの琴葉が、こんなに必死に握っている。「あなたじゃないとダメなの」って、泣きながら。

──もしかして私、今、ちょっとだけ、嬉しいのかもしれない。

そう気づいた瞬間、指先がすっと冷たくなった。

妹がこんなに苦しんでいるのに、嬉しいなんて。私って、最低だ。

何度も打ち消そうとしたのに、その小さな喜びは、しつこく胸の底に居座って、消えてくれなかった。

もしこれをやり遂げられたら、私にも、誇れるものが一つできるかもしれない──そんな計算が、頭のすみでちらついている。

自分の中に、こんな汚い気持ちがあったなんて、知りたくなかった。

それでも、私は小さく息を吸って、その気持ちにふたをした。せめて、きちんとやろう。琴葉のために。

そう決めたとき、手のひらに残っていたのは、妹の指の冷たさだけだった。

「……あんたね」

私は小さく息を吐いて、努めて軽い調子を作った。

「バレたら、それこそ退学になるかもしれないんだよ。分かってる?」

「分かってる。でも……」

「でも、じゃないでしょ」

私は苦笑いして、点滴のチューブが伸びる細い手を、そのまま握り返した。

「いいよ。琴葉がそこまで言うなら、付き合ってあげる。その代わり──」