身代わり特待生、はじめました。~双子の妹のフリして、御曹司に恋してます~


入場門に集まった選手たちの顔は、どれもこわばっていた。

二年A組の走順は、第一走者が望月くん、第二走者が宮川さん、第三走者が私、アンカーが加賀見くん。男女二人ずつの、混合リレーだ。

空は、さっきよりさらに暗い。風が、急に冷たくなってきた。

「……雨、もつかしら」

宮川さんが、空を見上げてぽつりと言った。

「大丈夫。加賀見くんが、間に合うように、プログラムの順番を組み直してくれたから」

「ええ。そうね」

宮川さんは、私のほうを向いた。

「椎名さん。バトンは必ず、あなたに繋ぐわ。足、引っぱらないでよね」

「うん。任せて」

「……あなた、今日は、いつもより目が輝いてるわね」

「え?」

「なんでもないわ」

前を向いた横顔の、口元だけがほんの少しゆるんでいた。

応援席のざわめきが、遠い波の音みたいに聞こえる。自分の心臓の音のほうが、ずっと大きかった。

「椎名さん」

隣に来た加賀見くんが、小声で言った。

「バトンの受け渡しは、練習どおりでいい。焦らなくていいから」

「……うん」

「俺、お前のこと待ってる」

それだけ言うと、加賀見くんはアンカーの位置へ歩いていった。その背中を見送ると、手の震えが少しだけ止まっていた。

「位置について──」

ピストルの音が、ぱあん、と鳴り、望月くんが飛び出した。

テニス部の彼の脚は、伊達じゃない。長い歩幅で、他のクラスの子とほとんど同時にカーブへ入っていく。

「望月くーん! いけー!」

応援席から、北条さんの声が飛んだ。

バトンが、宮川さんに渡る。長い髪が、ふわりと後ろへ流れた。

速い。背筋を伸ばしてまっすぐ、風を切っていく。

私は待機所で、手を握りしめた。次は、私の番だ。