「もう、一本もなくさないから」
嫌味なのか、冗談なのか。でも、彼女の目は真剣だった。
「お願い」
そう答えた、その瞬間だった。
さっきから、放送席のマイクが、時々ぷつぷつと変な音を立てていた。今日は湿気がすごいから、そのせいかと思っていたけれど。
──キーン!
耳をつんざく雑音を吐き出して、スピーカーが、ぷつりと切れた。
「機材が、壊れた!」
放送係の子が、青ざめて叫ぶ。
「直すまで、二十分はかかります!」
二十分……それじゃ、雨に間に合わない。新しい順番を、全校生徒に伝える方法がない。
「二十分は、待てない」
加賀見くんの声が、低くなった。
その横で、私は校庭を見渡していた。十八クラス分の応援席が、グラウンドをぐるりと囲んでいる。
端から端まで、ばらばらに散らばった、たくさんの人たち。
頭の中で、数字が勝手に動き出した。
道具置き場から入場門まで、歩いて四十秒。だったら、この距離は走れば何秒?
水曜と木曜、何度も往復して測った。私の足は、その距離を覚えている。
だけど、これをやったら、絶対に目立つ。両親との約束が、頭をかすめた。
一瞬の迷いを、飲みこむ。今は、それを気にしている場合じゃない。
「私が、伝えに行くよ」
気づけば、口が動いていた。



