とっさに、ハチマキを目深に引き下げて、柱の陰に隠れた。
今の私は、あの人が知っている「琴葉」の顔をしている。見つかったら、一発でアウトだ。
「椎名さん」
名前を呼ばれて、肩がびくんと跳ねた。
「救護のほうは、俺が話しておく。椎名さんは、放送席で進行の確認を頼む」
「え、あ……うん。分かった」
助かった。でも、どうして?
顔を上げたときには、加賀見くんは、もう白衣の人たちのほうへ歩いていくところだった。その背中は、いつも通り落ち着いていた。
偶然、なんだろうか。それとも、私が気づいていないだけで、彼は何か知っているんだろうか。
今は考えている場合じゃない。進行表を握り直して、放送席へと駆け出す。それでも、疑問は頭の隅にしっかり居座ったままだった。
◇
曇り空の下、校歌がいつもより低く響く開会式だった。
それが終わると、最初の競技が始まった。
玉入れ、綱引き、障害物競走。歓声とホイッスルの音が、グラウンドに響く。



