「椎名さんが……?」
北条さんが、目をぱちぱちさせた。それから、ふにゃっと笑った。
「なんだあ。椎名さんでも、失敗するんだ。……なんか、ほっとした」
「え?」
「だって椎名さん、いつも完璧で、ちょっと近寄りがたかったから。今の、すごく身近に感じたよ」
失敗しても、この人たちは、琴葉を嫌いにならないんだ。琴葉の居場所は、私が思っていたより、ずっと丈夫だったのかもしれない。
用具係の男子が、頭をかいた。
「……宮川さん、さっきは疑ってごめん」
宮川さんは、何も言わなかった。
口を固く結んだまま、私が机に置いたバトンを、じっと見つめている。それから、私のほうへ視線を移した。
責めるでも、感謝するでもない、探るような目だった。
「……朝の七時から、探してたのよ、こっちは」
低い声だった。
「棚の下も、マットの裏も、全部。どうしようって、思って……」
宮川さんの声が、わずかに震えた。すぐに咳払いで、ごまかす。
「なんで、あなたが落とすのよ。……次からは、ちゃんと確かめてから片づけて」
それだけ言うと、宮川さんは、私からふいと目をそらして、自分の荷物をまとめはじめた。
「うん。ごめん」
「言いにくかっただろ」
加賀見くんが、静かに言った。
「よく言えたな、彩──」



