「琴葉ね、ここに初めて来たとき、角砂糖を五個も入れたの」
「え」
「真顔で。『みんなが入れてたから』って。あとで聞いたら、上品に見えると思ったんだって」
五個。しかも、真顔で。あの琴葉が。
「そのとき決めたんだ。この子と、友達になろうって。背伸びして、一生懸命なのに、ぜんぜん隠せてないのが、可愛くて」
背伸び。
いつも完璧に見えた琴葉は、ここでもずっと、つま先立ちだったのかもしれない。
「だからね、最近の琴葉が、ちょっと違ってても、私は平気なんだ。よく食べて、よく笑って。……こっちの琴葉も、好きだよ」
日和ちゃんは、そこで一度、口をつぐんだ。それから、いつもより小さな声で言った。
「何かあったら、言ってね。私、待てるから」
カップの中で、紅茶の水面が、ゆらゆら揺れていた。
「何か」って、どこまでのことなんだろう。日和ちゃんは、何に気づいていて、何に気づかないふりをしてくれているんだろう。
聞き返せなかった。聞いてしまったら、全部がこぼれてしまいそうで。
本当は、椎名琴葉としてじゃなく、椎名彩葉として、日和ちゃんに全部を話してしまいたい。そんな衝動が込み上げてきて、私は慌ててそれを飲み込んだ。
「……ありがとう」
それが、精一杯だった。喉の奥が、熱かった。



