その夜。私は、自宅の琴葉の部屋のドアの前に立っていた。
「……入るよ」
誰もいないのに、小さく声をかけて、ドアを開ける。
きちんと片づいた机。本棚には、英語の本と辞書と、赤ペンだらけの参考書。ベッドのそばに、リボンのついたぬいぐるみが、ひとつだけ。
クローゼットを開けると、ワンピースが、きれいにならんでいた。私のクローゼットには、Tシャツと、ジャージしか入っていないのに。
淡いピンク色の、襟のついたワンピース。袖を通して鏡の前に立つと、そこには本当に「お嬢様」がいた。
「……らしくない、これ」
スマホを取り出して、琴葉にメッセージを送る。
『助けて。明日、日和ちゃんとアフタヌーンティー。習い事って何? 何をすればいいの?』
返信は、すぐに来た。
『習い事は英会話。ママから先生に、お休みの連絡をしてもらうね』
『お店は、「いつもの席」「いつものアールグレイ」で通じるよ』
『三段のお皿は、下の段から、上へ! わたしの分まで、楽しんできてね』
最後の一通で、肩の力がふっと抜けた。



