「俺んちの話は、いいだろ。それより、ハチマキの数、ちゃんと数えたのか?」
「あ、照れてる」
「照れてない」
ぶっきらぼうに言い捨てて、加賀見くんはさっさと箱を運んでいった。その横顔が、ほんの少し赤い。
私はハチマキの金の刺繍を、指先でなぞってみた。つるりと冷たくて、持っているだけで背筋が伸びる。
私の運動会は、レジャーシートに、お母さんのおにぎりだった。
朝から場所取りをして、家族みんなで、あれこれ言いながら食べた。それはそれで、大好きだったけれど。
生まれたときから、行く先が決まっている人。当たり前みたいに、この世界を歩いている人たち。
羨ましいのか、怖いのか、自分でも分からなかった。
そして琴葉は、この場所に、二年も通ってきたんだ。
……琴葉は、ここで怖くなかったのかな。
そんなことを考えたのは、初めてだった。
◇
昼休み。日和ちゃんが、にこにこして言った。
「琴葉。明日のお父さんとの予定、どうなった?」
「えっ」
やばい。すっかり忘れてた。
「あの……なくなった、かも」
「ほんと!? じゃあ、決まりだね。アフタヌーンティー!」
……しまった。
「習い事は、今週はお休みでしょ? 午後から、いつものお店ね!」
断る言い訳は、もうどこにも残っていなかった。行くしかない。



