「だ、大丈夫。いつもの、ことだから」
しゃがみこんで、慌てて雑巾を探す加賀見くんの耳が真っ赤だった。
段取りの鬼のような人にもこんな、そそっかしい一面があるらしい。
「な、なんで、ここに」
「明かりが見えたから。ここで、何してるの?」
鉢植えには、小さな手書きの札がいくつも刺さっている。
『カモミール』『ミント』『ラベンダー』
どれも、几帳面な字だった。
「……薬草温室。学園の『みどりの回廊』っていう、病院と連携したプロジェクトなんだ。父の病院に、届けてる。入院してる患者さんに、少しでも季節を感じてもらえたらって」
加賀見くんは少し、気まずそうに目をそらした。
「誰にも言うなよ。柄じゃないって、からかわれるから」
「そんなこと、ないよ。……すごく、素敵だと思う」
思わず、正直な感想が口からこぼれた。
加賀見くんは意外そうな顔をして、それから耳を少し赤くした。
「……変なやつ」
「お互いさまでしょ」
私は、鉢植えの一つを覗きこんだ。小さな葉っぱが、夕方の光を受けて、きらきらと光っていた。



