中学受験のとき、琴葉だけが、明凰学園の特待生試験に合格した。全国から生徒が集まる、あの名門校に。
特待生というのは、学費のほとんどを免除してもらえる代わりに、成績もふるまいも厳しく見られる、特別な生徒のこと。
私は、受けなかった。正確には、受けられなかった。うちの家計では、特待生になれなければ、学費を払い続けるのは難しいから。
両親は『彩葉には彩葉の道があるから』と言ってくれた。でも本当は、私も受けてみたかった。
その一言が言えなくて、『別に受けたいと思ってなかったよ』と、みんなにも自分にも、嘘をつき続けてきた。
私は、近所の公立中学に進んだ。友達もいるし、部活も楽しい。不満はない。
ただ、夜遅くまで机に向かう琴葉の背中を見るたびに、ふと胸が冷えることがある。私には、これっていうものが、何もないんだな、と。
◇
病院に着くと、琴葉は点滴をつけたまま、青白い顔でベッドに横たわっていた。
私が病室に入っても、ぼんやり天井を見つめたまま、何も言わない。いつもの琴葉らしくなくて、その沈黙が逆に怖かった。
「……彩葉ちゃん」
やっと私に気づいて、琴葉はほっとしたような、泣き出しそうな顔で名前を呼んだ。
「無理しすぎなんだよ、あんたは」
私はわざと乱暴に椅子を引き寄せて座り、なるべく明るい声を出した。深刻な顔をしたら、琴葉を余計に追い詰める気がしたから。
先生の説明は、こうだった。原因は過労。入院は三週間。そのあとも自宅でしばらく療養が必要で、学校に戻れるのは、早くても七月の終わり頃。
その言葉を聞いた瞬間、琴葉の顔から、すうっと血の気が引いた。
「三週間って……」
「どうしたの?」



