「……心配かけて、ごめんね」
やっと出た声は、自分でも驚くほど小さかった。謝る相手は、この人じゃない。それでも、他に言えることがなかった。
私は、急いで話題を変えた。
「あのさ。道具って、いつも誰が運んでるの?」
「用具係が、道具置き場から入場門まで。一人ずつ往復するから、時間がかかる」
「それ、リレーにしたらどう? 人を等間隔に並べて、パスをつなぐみたいに、手渡しで回すの。走らなくても、そのほうが速いと思う」
バスケ部のパス練習の要領だ。頭の中でだけ、そう付け足す。
加賀見くんはペンを止めて、まじまじと私を見た。
「……手渡し。なるほど」
ペンが、走りだした。進行表の余白に、道具置き場と入場門の図が、あっという間にできあがっていく。
「距離、測ろう。実際にやってみたほうが早い」
ストップウォッチを手に、立ち上がる。ドアの前で、加賀見くんが、ふと振り返った。
「椎名さんって、こういうとき、目つきが変わるよな」
「え?」
「いや。面白いなって、思っただけ」
先に出ていく背中を、私は数秒、見送ってしまった。……面白いって、何が?



