「……珍しいわね、椎名さんが。では、宮川さん」
「はい」
すっと立ったのは、ゆるく巻いた長い髪の、目元がきりっとした女の子だった。
宮川紬さん。ノートに『油断しないでね』とあった子だ。
彼女は、すらすらと英語を読み上げた。発音が、まるで外国の人みたいにきれいだ。
読み終えて席に座るとき、ちらりと私を見る。
くすくす、と小さな笑い声が聞こえた。顔がかっと熱くなって、私は下を向く。
その後の数学でも、似たようなものだった。琴葉が得意なはずの証明問題で、私のシャーペンは、完全に止まってしまった。
体育のテストなら、満点なんだけどな──そんな軽口も、今は浮かんでこなかった。
◇
休み時間。移動教室のために階段を下りていたとき、前を歩いていた小柄な女の子が、段差につまずいた。抱えていた分厚い資料が、ばさっと宙に舞う。
私は考えるより先に、体が動いていた。
片手で資料をキャッチして、もう片方の手で女の子の腕をつかむ。
「ご、ごめん! ありがとう……!」
顔を上げたのは、今朝、声をかけてくれたポニーテールの子だった。
資料の表紙には、『体育祭実行委員 北条茉優』と書かれた付箋が貼ってある。
北条さん、っていうんだ。琴葉の言っていた通りだ。
「ケガはない?」
「ないない! 椎名さん、反射神経すごいね。助かったあ」
北条さんは、資料を抱きしめて笑った。



