ホームルームで、担任の藤原先生が教室に入ってきた。眼鏡をかけた、物静かな女の先生だ。
「椎名さん。昨日は、体調のほうは大丈夫でしたか? お母様から、検査だけで問題なかったと伺いましたけど」
ひやり、とした。お母さん、ちゃんと連絡してくれたんだ。
「は、はい。ご心配をおかけしました」
「それなら、よかった。でも、無理は禁物ですよ」
藤原先生は、優しく微笑んだ。それから、少しだけ声をひそめる。
「特待生の選考期間中は、皆さん、気を張りますからね。何かあったら、遠慮なく相談してください」
──選考期間中。
その一言で、背中に重いものがのしかかった。私が今日ここにいる理由は、琴葉の四十五日を守ること。それを、忘れちゃいけない。
◇
一時間目は、英語だった。
「では、前回の続きから。Open your textbooks to page thirty-two.」
先生の指示のほとんどが英語。みんなは、当たり前のようにページをめくっている。私は周りの真似をして、なんとかページだけは合わせた。
教科書を見て、私は目を見開く。
ページの余白が、小さな字でびっしり埋まっている。単語の意味、発音の記号、先生が話したことのメモ。色違いのペンで、線まで引いてあった。
琴葉、毎日、こんなにやってたんだ。そう思うと、胸がきゅっとなった。
きれいに並んだ文字を、指でそっとなぞる。ひとつひとつが、琴葉の努力の跡だった。
「では、椎名さん。この文を読んでみてください」
「えっ、あ……」
立ち上がったものの、どこを指されたのかも分からない。書き込みの字を目で追って、単語を拾い読みするけれど、声はどんどん小さくなっていく。



